給特法改正法案に反対する幹事長声明
2025/3/7
給特法改正法案に反対する幹事長声明
2025年3月7日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮
1 政府は、2025年2月7日、公立の義務教育諸学校等における教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、「給特法」という。)等の一部を改正する法律案(以下、「改正法案」という。)を閣議決定した。
改正法案では、公立学校教員の処遇改善等を図るため、公立学校教員に対して時間外勤務手当の代わりに給料月額の4%を支給している「教職調整額」について、2026年1月から6年間かけて段階的に10%まで引き上げることが盛り込まれた。他方で、時間外勤務に従事しても一切の時間外勤務手当を支給しないという現行の給特法の枠組みは維持されている。
2 しかし、公立学校教員をめぐる最大の課題は、多数の休職者や離職者を生じさせ、教員志願者数の減少や教員不足等を引き起こす原因にもなっている「長時間労働」の是正である。そして、長時間労働の最大の法的要因は、憲法27条2項に由来する最低基準の労働条件を定める労基法の労働時間規制の適用を排除する、給特法の上記枠組みである。時間外勤務を「自主的・自発的」活動として労働時間と扱わない結果、労働時間の適正な把握・管理も行われず(持ち帰り残業を射程外とする在校等時間管理は、「労働時間管理」ということはできない)、36協定による長時間労働の歯止めもなく、時間外勤務手当も一切支給されず、時間外勤務への抑止が全く働いていない。
したがって、教員の長時間労働を是正するためには、給特法の上記枠組みを見直すこと(給特法の廃止または抜本的な改正)が必要不可欠である(詳細は、2023年8月18日付当弁護団の「公立学校教員の労働時間法制の在り方に関する意見書」参照)。
これに対し、改正法案による教職調整額の増額は、一定の処遇改善にはつながるとしても、長時間労働の是正にはつながらない。むしろ、現行の給特法の枠組みを固定化することにより、教員の労働環境改善にとっては悪影響となりかねないものであり、到底容認できない。
3 改正法案では、学校における働き方改革の一層の推進のため、新たに教育委員会に対し、教員の業務量管理・健康確保措置実施計画の策定・公表、計画の実施状況の公表を義務付けることとされている。
しかし、給特法の上記枠組みにより、労働時間管理ではなく「在校等時間」の管理を前提にしながら、このような措置が導入されれば、在校等時間を減らすため、既に指摘される管理職による退勤の強要や持ち帰り残業の増加、勤怠記録の改ざん等の事態が悪化するおそれがある。
長時間労働是正のための出発点は、給特法の根本的な問題点から目を背けず、教員の時間外勤務を「時間外労働」と扱い、36協定の締結や残業代の支払い等を通じて、労働時間規制を実効化させることである。
4 2019年の給特法改正時の参議院附帯決議では、「2、3年後を目途に教育職員の勤務実態調査を行った上で、本法(引用者注:給特法)その他の関係諸法令の規定について抜本的な見直しに向けた検討を加え、その結果に基づき所要の措置を講ずること」とされた。そして、2022年に実施された勤務実態調査では、この間、働き方改革の名の下に様々な施策が実施されてきたにもかかわらず、いまだ過労死ラインを超える長時間労働が蔓延する状況は何ら変わっていないことが明らかになっている。
このような状況からしても、教員の長時間労働を是正するためには、現行の給特法の上記枠組みを抜本的に見直すべきである。
今も長時間労働に苦しむ現場の教員や、これから教員を目指す学生たちが、何よりも求めているのは、異常なまでの長時間労働の是正・労働環境の改善である。改正法案により教職調整額の段階的な引き上げが実現されることによって、教員の労働環境を改善するために真に必要な措置が見送られるようなことがあってはならない。
5 以上より、当弁護団は、教職調整額を段階的に増額するという改正法案は廃案とし、これに伴う予算措置についても削除した上で、あらためて現行の給特法の枠組みの抜本的見直しに向けた議論を早急に進めることを求める。
以上