ハラスメント行為の包括的かつ明確な禁止規定の法制化を求める談話

2024/12/24

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ハラスメント行為の包括的かつ明確な禁止規定の法制化を求める談話

2024年12月24日
日本労働弁護団幹事長 佐々木 亮

 厚生労働省は、2024年9月より労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」検討を進め、同年12月16日には「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について(案)」を示し、取りまとめを行おうとしている。

同案には、カスタマーハラスメントの措置義務化等、その具体的内容については不十分な点もあるものの、評価できる内容もある。しかし、看過できない箇所がある。それは、ハラスメントの包括的禁止の法制度化が大きく後退した点である。

 そもそも、雇用環境・均等分科会における検討は、厚生労働省「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」の報告書(2024年8月8日)を受けて行われたものであった。そして、同報告書においては、「国はハラスメント対策に総合的に取り組む必要がある」として、「4種類のハラスメントに係る規定とは別に、一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨を法律で明確にすることが考えられる」としていた。雇用環境・均等分科会でも、当初、同検討会の上記①を受け、「女性活躍推進及び職場におけるハラスメント対策についての論点」(第76回資料1)においては、「職場におけるハラスメントは許されるものではない旨の明確化」との表題のもと、「ハラスメント対策に総合的に取り組んでいく必要があることから、雇用管理上の措置義務が規定されている4種類のハラスメントに係る規定とは別に、一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨の規定を法律に設けることとしてはどうか」としていた。

ところが、同年12月16日に開催された第78回において示された上記案では、「職場におけるハラスメントを行ってはならないという規範意識の醸成」という表題に変更されたうえで、「雇用管理上の措置義務が規定されている4種類のハラスメントに係る規定とは別に、一般に職場におけるハラスメントを行ってはならないことについて、社会における規範意識の醸成に国が取り組む旨の規定を、法律に設けることが適当である」とされた。

 これは極めて大きな後退であって、到底認めることはできない。あらゆるハラスメントについて、個別の立法で対応することに限界があり、包括的なハラスメントに対する法規定が必要であることは、雇用環境・均等分科会の上記案(一般に職場におけるハラスメントを行ってはならない)も念頭においていると思われる。ところが上記案では、それを「禁止」するのでも、報告書に示されていたような「許されるものではない」と明記するというのでもなく、「社会における規範意識の醸成に国が取り組む」として大きく後退させてしまったのである。

同案は、事業主に対してハラスメント防止措置を義務付けるだけに留まる現在の日本のハラスメント法制を維持するものであるが、同案でも指摘されているとおり、都道府県労働局へのハラスメントに係る相談件数は依然として高止まりしている状況にある。また、企業にハラスメント防止措置を課すのみでは、企業の相談窓口が適切に機能せず被害者が泣き寝入りするケース、相談をしても適切な対応がなされないケースも後を絶たず、事業主に対して雇用管理上の措置義務を課すだけでは、ハラスメント被害の防止・是正、救済に限界があることは明らかである。かかる状況において、あらゆるハラスメントが許されないことを「社会における規範意識の醸成に国が取り組む」だけに留めるのは、あまりに遅鈍な態度と指摘せざるを得ない。

あらゆるハラスメント被害に対する具体的かつ実効的な救済とそのための抜本的な法改正・法制備は急務であり、ハラスメント防止対策の強化の必要性は、国が「社会における規範意識の醸成に取り組む」といった悠長な段階にはない。当弁護団は、これまでも、ハラスメント行為を包括的かつ明確に禁止するとともに、これに違反した場合の損害賠償請求権、その他救済方法について定めた法律を制定するよう繰り返し求めてきた(2024年10月31日・「世界標準のハラスメント防止法制の実現を求める声明」等参照)。

ハラスメントに関する立法をする契機が常にあるわけではない。ハラスメント関連立法に関する改正が検討されている今は、その千載一遇の時機である。これ以上、ハラスメント包括禁止法制定を先送りにすることは許されない。当弁護団は、改めて、ハラスメント包括禁止法を制定し、その目的規定として「職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨」を定めることを、強く求める。

以上