非正規公務員制度立法提言

2024/11/12

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非正規公務員制度立法提言

2024年11月8日
日本労働弁護団
会長 井上幸夫

(目次)

1 はじめに·· 1

2 本提言の取り扱う範囲·· 2

3 入口規制·· 4

4 無期転換·· 8

5 期間の定めのない非常勤職員の勤務条件·· 11

6 雇止め制限·· 12

7 上記各規制違反の場合に任命権者が任用をしないときの救済方法·· 13

8 定数との関係·· 15

9 均等均衡待遇·· 17

10 短時間公務員制度について·· 20

11 結論·· 20

 

1 はじめに

非正規公務員(国においては期間業務職員、地方においては会計年度任用職員が典型的である)は、国や地方自治体の、とりわけ国民・住民に行政サービスを提供する場面において、重要な役割を担っている。特に、会計年度任用職員については、地方自治体の職員総数の2~3割(地方自治体によっては5割)を超えている。国民・住民の具体的な人権保障そのものを最前線で担っているのは、こうした非正規公務員なのである。

ところが、こうした重要な役割と責任を負わされているにもかかわらず、これら非正規公務員に対する権利保障は著しく弱い。

この点、民間の有期雇用労働者については、2012年労契法改正により、労契法19条が雇止めに解雇権濫用法理を適用するものとし、さらに同法18条が通算契約期間が5年を超える有期雇用労働者の無期転換を定め、有期・パート労働者の賃金については、現パート有期法8条・9条が不合理な格差等を禁ずるなど、一定の保護が図られている。

ところが、非正規公務員は、このような保護からまったく排除されている。すなわち、公務員は、労契法もパート有期法も適用除外とされている(労契法21条1項、パート有期法29条)。そして、非正規公務員の雇止めについては、裁判所は新たな任用がないことを理由にことごとくその地位を否定し(大阪大学事件・最一小判平6.7.14労判655号14頁など)、損害賠償により救済した事例(中野区事件・東京高判平19.11.28労判951号47頁など)もわずかしかない。これは法の欠缺であるのみならず、不条理というほかなく、著しく正義に反する事態である。また、賃金等の労働条件の劣悪さに対する法律上の手当も極めて不十分である。

ちなみに、会計年度任用職員制度が導入された2017(平成29)年地公法改正に際しては、衆議院・参議院ともに、以下の附帯決議がなされた。

「二 人材確保及び雇用の安定を図る観点から、公務の運営は任期の定めのない常勤職員を中心としていることに鑑み、会計年度任用職員についても、その趣旨に沿った任用の在り方の検討を引き続き行うこと。」

「四 本法施行後、施行の状況について調査・検討を行い、その結果を踏まえて必要な措置を講ずること。その際、民間部門における同一労働同一賃金の議論の動向を注視しつつ、短時間勤務の会計年度任用職員に係る給付の在り方や臨時的任用職員及び非常勤職員に係る公務における同一労働同一賃金の在り方に重点を置いた対応に努めること。」(以上、衆議院附帯決議より)

しかし、いまだにこれらの検討や措置が行われていないのは遺憾というほかない。

当弁護団は、2012年労契法改正に先立ち、民間の有期契約労働者保護のための立法提言をしたことがあるが[1]、非正規公務員が直面している身分の不安定さの解消、処遇の劣悪さの改善は喫緊の課題と考え、本提言を策定することにした。

なお、本提言策定にあたっては、わが国における主要な公務員産別労働組合が発表している要求事項を参考とさせていただいたが、本提言はあくまで労働弁護士としての立場からの提言である。

2 本提言の取り扱う範囲

1)労働基本権、政治的自由の回復について

地方公務員については、会計年度任用職員制度(地公法22条の2)の施行(令和2年4月)に伴い、従前の非常勤職員(地公法3条3項3号の特別職)から会計年度任用職員への任用替えが多数行われた。これにより、会計年度任用職員の労働基本権が制限され、当該職員を組織する労働組合は地公法上の職員団体とされて、従前使えていた労働委員会制度が使えなくなるなどの問題が生じた[2]

これに限らず、わが国の公務員制度については、労働基本権の制限や、政治的自由の禁止・制限(とりわけ国家公務員については罰則付き)などの前時代的な問題点が残されている。

当弁護団としては、ILO87号条約、憲法28条等をふまえて、すべての公務員について、労働基本権の制限、政治的自由の禁止・制限からの解放をすべきであり、以上の問題は看過できないと考えているが、本提言では、急務である非正規公務員の身分の不安定さと処遇の劣悪さの改善に焦点を絞って論ずることにする。

2)任用と労働契約の関係について

当弁護団は、すべての公務員の労働関係について、任用という行政行為によるのではなく、労働契約などの契約に基づく関係に改められるべきであると考えている。

しかしながら、本提言では、さしあたり、任用概念を維持しつつ、最低限手当をすべき立法的課題に絞って述べることにする。

3)会計年度任用職員を念頭に論ずることについて

公務員は、国・地方とも、法適用を異にするさまざまな種類に分かれており、それぞれに常勤以外の職員が存在するが、本提言では、まず、定年前再任用短時間勤務職員(国公法60条の2、地公法22条の4、5)については、検討の対象外とする。

また、臨時職員(国公法60条、地公法22条の3)については、6か月以内の任用で更新が1回のみとされており、1年以内に終了するものとされていることから、これも検討の対象外とする(なお、臨時職員については、「常時勤務を要する職に欠員を生じた場合において、緊急のとき、臨時の職に関するとき、又は採用候補者名簿がないとき」(地公法22条の3)などとして入口規制がかけられている)。

一般職の非常勤職員についても、以下のとおり、適用法令は多岐に分かれている。

〔国家公務員〕

○期間業務職員(人事院規則8―12(職員の任免)4条13号、46条以下)は一般職(国公法2条2項)であり、国公法が適用される。

○行政執行法人職員(独立行政法人通則法51条により公務員とされる)の非常勤職員については、一般職(国公法2条2項)であり、国公法が適用される。

〔地方公務員〕

○会計年度任用職員(地公法22条の2)は、地公法が適用される。

○地方公営企業職員の非常勤職員については、地公企法39条1項は地公法22条の2を適用除外としていないので、同条が適用される。

○現業(単純労務職員)の非常勤職員については、地公法57条で特例を定めるとされているが、地公企労法附則5項は地公企法39条を準用しているので、地公法22条の2が適用される。

○特定地方独法職員(地方独立行政法人法47条により公務員とされる)の非常勤職員については、同法53条は地公法22条の2を適用除外としていないので、同条が適用される。

このように、一般職の非常勤職員に関する法適用は、国については国公法、地方については地公法に収斂される。そこで、本提言では、このうち、人数の多い地公法上の会計年度任用職員制度に焦点をあてて論ずることにする。国における非常勤職員制度の改善のあり方は、これとパラレルに考えればよい。

(4) 雇用保障に関する各立法試案の関係性について

以下では、会計年度任用職員の雇用保障に関する立法試案として、①入口規制、②無期転換制度、③雇止め制限を挙げる。当弁護団は、職員の任用を無期限のものとするのが法の原則であることから、入口規制が原則であり、これにより雇用保障が実現されるべきであると考える。もっとも、仮に入口規制を導入しない場合であっても、会計年度任用職員の雇用保障のために、少なくとも労働契約法で定めている無期転換制度及び雇止め制限と同様の制度が必要であることから、無期転換制度及び雇止め制限についても立法提言をする。

3 入口規制

1)入口規制の必要性

公務においては、「職員の任用を無期限のものとするのが法の原則」であり、期限付き任用は「それを必要とする特段の事由が存し、且つ、それが右の趣旨(注 職員の身分を保障し、職員をして安んじて自己の職務に専念させる趣旨)に反しない場合」に許される(東郷小学校事件・最三小判昭和38年4月2日民集17巻3号435頁)。つまり、公務は、「任期の定めのない職員」によって担われるのが原則であり、期限付き任用はあくまで例外というのが法の建前である[3]

しかし、臨時的・時限的な身分であるはずの会計年度任用職員が、会計年度で終了しない恒常的な業務に従事している実態が、広く存在している。これは法の趣旨に反する運用が横行しているということである。そして、会計年度任用職員が恒常的な業務に従事している場合であっても、労契法が適用除外とされ(労契法21条1項)、民間における雇止め法理の保護から排除されていることから、当局は恣意的な雇止めすらできるのが実態である。

これは制度の濫用というべきことであるが、さらに現状は、濫用の結果生ずるあらゆる不都合ないし矛盾が会計年度任用職員のみに負わされ、制度を濫用した当局はその責任から一切免れているという不正義が重なっているのである。

したがって、制度の濫用を防止するためには、まず、会計年度任用職員として任用できる場合を制限することが必要である(いわゆる入口規制)。

なお、民間の労働契約について雇止め規制が導入された2012年労契法改正時には、この入口規制は見送られたが、公務員制度において期限付き任用が例外である以上、一定の要件を定めてそれを遵守するよう任命権者に求めたとしても、何ら不都合はないはずである。

具体的には、会計年度任用職員として任用することができるのは、「当該職員を従事させる職務が会計年度内に終了することが職務の性質から客観的に見込まれるとき」に限られるべきである。「会計年度内に終了することが……見込まれる」か否かは、地方公共団体の主観的な判断ではなく、職務の性質から客観的にみて判断されるべきである。とりわけ、会計年度任用職員を「再度の任用」により前年度と同種の職務に従事させた場合には、入口規制違反は明白というべきである。

2)「期間の定めのない非常勤職員」としての任用義務づけ

入口規制を遵守しなかった任命権者にサンクションが課されるべきは当然であり、具体的には、当該職員を任期の定めのない職員として任用させるべきである。また、当該入口規制に違反したということは、当該職員にかかる職務が、職務の性質上、会計年度で終了することが見込まれないということであるから、任期の定めのない職員として任用するのがむしろ相当であるといえる。

この場合、任用という行政行為に違法な期限をつけていたことになるので(違法な附款)、その附款は無効であるから当然に期間の定めのない職員となるという考え方もありうるところであるが、本提言では、後述の無期転換や雇止め禁止の定めとのバランス上、会計年度任用職員が申請をしたときは任命権者に期間の定めのない職員として任用すべき義務を課すべきものと考えた。

ここでは、新たに任用される職員の名称が問題となるが、さしあたり「期間の定めのない非常勤職員」としている[4]

ここで述べる「期間の定めのない非常勤職員」とは、競争試験を経て採用されジョブローテーションなどが想定される常勤職員とは異なり、会計年度任用職員として行っていた従前の職務と同等の職務を担う期間の定めのない職員を想定している。民間において労契法19条に基づく無期転換を行っても、いわゆる正社員に直ちになるものではないことと同様である。

なお、任用は「相手方(本人)の同意を前提とする行政行為(処分)」とされている。この本人の「同意」が、条件なのか、「意思表示」なのかは、はっきりとしないが[5]、任命権者に何らかの応答(法律行為)を義務づけるためには、本人からの申出は「申請」とすることが適当である。

そして、任命権者が当該会計年度任用職員を「期間の定めのない非常勤職員」として採用しないことを、単なる不作為ではなく、行政処分とすることで、それが取消訴訟等により救済の対象となることが明らかとなり、入口規制に実効性を付与することができる。

3)成績主義との関係

公務員の任用が、国民・住民に対して責任を負う見地から、成績主義(地公法15条)の要請を満たす必要があることはいうまでもない。

しかし、もともと会計年度任用職員として任用される場面で成績主義の要請は満たしているはずである。期間の定めがあるからといって、能力が低くてもよいということにはならないからである。そうすると、その職員が「期間の定めのない非常勤職員」として採用されたとしても、担う職務が、会計年度任用職員時と同等のものである限り、成績主義の要請に反することにはならない。そして、上記のとおり、今回の立法試案における「期間の定めのない非常勤職員」は、無期転換した後に従前の職務とまったく異質の職務(従前の職務よりも高度な専門性を有する職務など)に就くことは必ずしも予定されていない。そうすると入口規制違反による無期転換前と無期転換後の違いは、任用期間の有無のみであり、必要とされる能力・適性は同等であると考えられる。そのため、会計年度任用職員として任用される段階で既に能力の実証が済んでいる者について、入口規制違反により「期間の定めのない非常勤職員」として採用しても、成績主義に反するものではない。

(4)分限・懲戒事由がある場合

分限免職や懲戒免職に相当する事由が存在する場合であっても、任命権者は、それぞれの制度に則った手続をとれば足りるので、任用義務づけにあたり、これらの場合を除外する必要はない[6]

5)任用手続

地公法15条(能力の実証)は公務員制度の根本原則であり、地公法17条の2は、その能力を確かめるために、職員の採用方法につき、人事委員会を置く地方公共団体(都道府県、政令指定都市は必置。人口15万以上の市及び特別区は任意。地公法7条1項、2項)は原則として「競争試験」によるもの、人事委員会を置かない地方公共団体は「競争試験又は選考」によるものと定めている。

もっとも、入口規制違反を是正する場合には、すでに能力の実証がなされた任期付きの会計年度任用職員を期間の定めのない非常勤職員として改めて任用するだけであり、その前後で異なる職務に従事することが想定されているわけではないから、適宜の方法で足り、地公法17条の2を適用するのは不適当である。よって、これを明示的に適用除外としておく必要がある。

(6)任用取消の制限

入口規制に反して会計年度任用職員に任用されていたことが判明した場合であっても、任用行為は授益的行政処分であること、法の適用を誤った責任はあくまで任命権者にあるのに、何の責任もない会計年度任用職員に不利な方向で違法状態を是正することはクリーンハンドの原則からも容認しがたいことから、職権による取消しは法文上明確に禁止されるべきである。

採用試験の得点水増しによって採用された職員の任用取消の効力が争われた事件で、「原告の採用が情実に基づいて行われたとはいえない以上、本件採用決定が、地方公務員法15条に違反し違法なものであると評価することはできない」としたものがあるが(大分県・県教委(公立学校教員)事件・大分地判平27・2・23労判1114号12頁)、入口規制に違反した会計年度任用職員採用の場合には、採用時に相応の能力の実証はされているのであるから、任用を取り消すべき必要性はない。

そこで、今回の立法試案では、入口規制に違反した場合であっても、任命権者は、改めて「期間の定めのない非常勤職員」として採用する場合に限り、違法な会計年度任用職員の任用を取り消すことができることを条文上明示している。

 

【条文案】

地方公務員法

(会計年度任用職員の採用)

22条の22 前条[7]の会計年度任用職員の任用は、当該職員を従事させる職務が会計年度内に終了することが職務の性質から客観的に見込まれるときでなければならない。

2 前項に違反する場合において、当該会計年度任用職員が、任命権者に対し、任用期間が満了するまでの間に、期間の定めのない非常勤職員として採用されるよう申請をしたときは、任命権者は、当該会計年度任用職員を期間の定めのない非常勤職員として採用しなければならない。[8][9]

3 前項の採用にあたっては、第十七条の二は適用しない。[10]

4 会計年度任用職員が第二項の申請をした場合、任命権者は、当該申込みの日から一月以内に(申込みの日から一月以内に現に任用されている期間が満了する日が到来するときは満了日までに)、当該会計年度任用職員に対して採否の通知をしなければならない。

5 前項の採否の通知は当該職員に対する処分とみなす。[11]

6 任命権者は、第一項に違反する任用をしたときは、第二項の期間の定めのない非常勤職員として採用する場合に限り、これを取り消すことができる。

7 前項の取消しの効力は将来に向かってのみ効力を有する。

 

4 無期転換

1)無期転換の必要性

民間においては、有期労働契約を更新して、通算契約年数が5年を超えた場合に、労働者に次期の無期契約申込権を与え、使用者の承諾をみなすことで、無期労働契約が締結されるという仕組みをとっている(労契法18条)。

会計年度任用職員についても、「更新」または「再度の任用」[12]により、通算任用期間が5年を超えるような場合[13]は、もはや制度の濫用が定型的に確認できるというべきであるから、民間の場合と同様に、無期転換権を認めるべきである。

2)「期間の定めのない非常勤職員」としての任用義務づけ

もっとも、任用という概念を前提とする以上、民間と同様の契約構成は困難である。「2入口規制」のところで述べたように。任用は「相手方(本人)の同意を前提とする行政行為(処分)」とされているからである。

そこで、無期転換の要件は、

①通算任用年数の5年経過(客観的要件)と、

②当該職員が任命権者に対し「期間の定めのない非常勤職員」として採用するよう「申請」したこと(主観的要件)

とすべきである。

ここで「期間の定めのない非常勤職員」とは、「3 入口規制」のところで述べたものと同じものである。

なお、所定の場合にどの程度任命権者の裁量権を縛るかは立法政策の問題であり、「採用したものとみなす」と構成する余地もあると思われる(労契法18条も、使用者の採用の自由を制限している点では、同じである)。

3)成績主義との関係

無期転換は、まったくの新規採用の場面ではなく、「更新」ないし「再度の任用」を繰り返して一定期間勤務していたことが前提となっている。そして、入口である最初の採用の場面はもちろん、その後の「更新」ないし「再度の任用」の場面でも、その都度、能力の実証はなされている。他方で、無期転換した後に従前の職務とまったく異質の職務(従前の職務よりも高度な専門性を有する職務など)に就くことは必ずしも予定されていない。すなわち、無期転換前と無期転換後の違いは、任用期間の有無のみであり、必要とされる能力・適性は同等であると考えられる。そして、当該会計年度任用職員が5年目まで(またはそれ以上の期間)問題なく勤務してきたこと(ゆえに「更新」ないし「再度の任用」がなされてきたこと)からすれば、能力・適性は具備しているものと推定してよい。

この点、地公法22条の3第6項は臨時職員について「正式任用に際して、いかなる優先権をも与えるものではない。」とするが、これは臨時職員については必ずしも能力の実証が求められていないからであり(地公法15条の2第1項1号)、会計年度任用職員については、同様の規定はない。また、この「正式任用」とは常勤職員としての任用という意味なので、無期転換後の「期間の定めのない非常勤職員」についてはそもそも関係ないともいえる。そうであれば、通算任用期間が5年を超える会計年度任用職員に労契法18条と同様の無期転換権を与えても成績主義の要請に反することにはならない。

(4)分限・懲戒事由がある場合

分限免職や懲戒免職に相当する事由が存在する場合であっても、任命権者は、それぞれの制度に則った手続をとれば足りるので、任用義務づけにあたり、これらの場合を除外する必要はないことは、「3 入口規制」のところで述べたとおりである。

とりわけ、労契法18条は、無期転換権の発生・行使について、当該有期契約労働者に職務遂行能力が不足しているとか、懲戒事由がある場合に例外としていない。これは、仮に使用者にとって雇用を維持しがたい事由があれば、それが判明した時点で雇止めないし契約期間途中の解雇で対応すればよいと考えられているからであるが、そうした事情は地方公務員においても同様といえることから、これとパラレルな仕組みとすれば足りる[14]

5)任用手続

無期転換申請を受けて「期間の定めのない非常勤職員」として任用する場合の手続についても、「3 入口規制違反」で述べたように、地公法17条の2は適用除外とされるべきである。

【条文案】

地方公務員法

(無期転換)

22条の23 同一の地方公共団体[15]において任期を更新しまたは再度任用され通算した任用期間が五年を超える会計年度任用職員が、任命権者に対し、現に任用されている期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から職務を提供する期間の定めのない非常勤職員として採用されるよう申請したときは、任命権者は、当該会計年度任用職員を期間の定めのない非常勤職員として採用しなければならない。[16][17][18] 

2 前項の採用にあたっては、第十七条の二は適用しない。[19]

3 会計年度任用職員が第一項の申請をした場合、任命権者は、当該申請の日から一月以内に(申請の日から一月以内に現に任用されている期間が満了する日が到来するときは満了日までに)、当該会計年度任用職員に対して採否の通知をしなければならない。

4 前項の採否の通知は当該職員に対する処分とみなす。[20]

5 当該地方公共団体における一の任用期間が満了した日と当該地方公共団体におけるその次の任用期間の初日との間これらの任用期間のいずれにも含まれない期間(以下この項において「空白期間」という。)があり、当該期間が六月以上であるときは、当該空白期間前に満了した任用期間は、通算任用期間に算入しない。[21]

6 任命権者は、第一項の申請に基づき当該職員を期間の定めのない非常勤職員として採用したときは、当該職員の会計年度任用職員としての任用を取り消す。

7 前項の取消しの効力は将来に向かってのみ効力を有する。

 

5 期間の定めのない非常勤職員の勤務条件

1)勤務条件条例主義

職員の勤務条件は条例により定められる(地公法24条5項)。これは、入口規制違反ないし無期転換によって期間の定めのない非常勤職員となった者についても同様である。

ところで、期限付き任用である会計年度任用職員と、入口規制違反ないし無期転換により採用された期間の定めのない非常勤職員とは、異なるのは期間の定めの有無のみであり、従事する業務は同一ないし同等と考えられることから、特段の定めがない限り、同一の給料表が適用されると解すべきである。

2)不利益変更を規制する必要性

民間の有期雇用労働者が無期転換する場合の労働条件について、労契法18条1項第2文は「……現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」と定めており、別段の定めがなければ無期転換前の労働条件が維持されることになる。そして、立法者は、別段の定めについては、無期転換によって労働条件が向上することを想定しており、反対に労働条件が低下することは想定していなかったと言われている。少なくとも、有期雇用労働者が無期転換権行使を躊躇するような別段の定めは、法の趣旨に反し、その程度によっては公序良俗違反として無効となり得る。

同様の問題は、入口規制違反ないし無期転換により期間の定めのない非常勤職員として採用される場合の勤務条件についても起こり得る(条例の内容自体が不利な場合もあれば、条例に基づく適用の場面で不利な勤務条件とされる可能性もあり得る。)。

しかし、会計年度任用職員が申請権行使をためらうことになれば、現在の無権利状態からの救済を目的とする本提言の趣旨に反することになる。そして、会計年度任用職員の給与・勤務条件が正規職員と比較して著しく劣悪であることが大きな問題となっていることからすれば、会計年度任用職員から期間の定めのない非常勤職員に転換した際には、少なくとも従前の勤務条件が維持されるよう、条例制定権を規制する必要がある。

【条文案】

地方公務員法

(期間の定めのない非常勤職員の勤務条件)

22条の24 第二十二条の二の二、又は同条の二の三の定めにより採用された期間の定めのない非常勤職員の給与その他の勤務条件は、条例で定める。

2 期間の定めのない非常勤職員の勤務条件は、当該採用より前の勤務条件より不利なものであってはならない。

 

6 雇止め制限

1)雇止め法理の必要性

有期契約労働者の雇用保障は、無期転換だけでは不十分である。これは、民間においても、労働者が無期転換権を取得する直前の雇止め事件が多数発生して紛争となっていることからも明らかである。だからこそ、民間の有期契約については、無期転換権(労契法18条)のみならず、雇止め法理(労契法19条)が定められている。

会計年度任用職員についても、雇用保障の必要性という観点からは民間と変わるところはないのであるから、同様の仕組みが必要である。

2)雇止め法理の具体的内容

労契法19条は、①有期雇用が反復更新されて期間の定めのない雇用と変わらない状態になっているとき、または、②雇用継続に合理的期待がある場合、使用者の雇止め(次期契約の更新拒絶)が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときは、使用者は次期契約を承諾したものとみなすと定めている。

会計年度任用職員についても、保護されるための要件は労契法19条と同じでよい。

すなわち、①期限付き任用が反復更新されて期間の定めのない任用と変わらない状態になっているとき、または、②任用継続に合理的期待がある場合[22]には、任命権者が次期の任用をしないときは、労契法19条に相当する保護の仕組みをもうけるべきである[23]

ただし、会計年度任用職員は、労働契約ではなく任用によるものであることからすれば、その効果は、無期転換の場合と同じく、任命権者が任用したとみなすのではなく、任用義務づけという構成をとるのが適当である。

そして、当該職員の申請にかからしめること、これに対する任用拒否は不利益処分とみなして取消訴訟等の対象とすること、成績主義との関係、分限・懲戒事由がある場合、任用手続については、「3 入口規制違反」、「4 無期転換」で述べたのと同じである。

【条文案】

地方公務員法

(雇止め制限)

22条の25 会計年度任用職員が次の各号のいずれかに該当する場合であって任期が満了する日までの間に当該会計年度任用職員が次期の任用の申請をした場合又は当該任期満了後遅滞なく任用の申請をした場合であって、当該職員に第二十八条第一項各号の事由(ただし、分限免職相当の事由に限る)又は第二十九条第一項各号の事由(ただし、懲戒免職相当の事由に限る)がない場合[24]は、任命権者は、従前の勤務条件と同一の勤務条件で当該職員を任用[25]しなければならない。

一 当該職員が過去に反復して任用されたことがあるものであって、その任期の満了時に再び当該職員を任用しないことが期間の定めのない職員を分限免職処分することと社会通念上同視できると認められること

二 当該職員において任期の満了時に再び任用されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること

2 前項の採用にあたっては、第十七条の二は適用しない。[26]

3 第一項の申請がなされた場合、任命権者は、当該申請の日から一月以内に、当該申請者に採否の通知をしなければならない。

3 前項の採否の通知は当該職員に対する処分とみなす。[27]

7 上記各規制違反の場合に任命権者が任用をしないときの救済方法

1)義務づけ

会計年度任用職員が、これまで述べた「3 入口規制」、「4 無期転換」、「6 雇止め制限」の各規制にかかる所定の要件を満たしているにもかかわらず、任命権者が任用(入口規制違反及び無期転換の場合は「期間の定めのない非常勤職員」としての任用)をしないときの救済方法をどうするかが問題となる。

各項目で述べたとおり、任命権者に当該職員からの申請に対する応答義務を明文で定めれば、任命権者が任用しない場合、あるいは任用を拒否した場合、当該職員は申請型義務づけ訴訟を提起することができることになる。すなわち、これまで述べた各規制にかかる任用の申請を「行政庁に対し一定の処分……を求める旨の法令に基づく申請」(行訴法3条6項2号)と解し、これに対して各規制に定めた応答期間内に応答がない場合には「当該法令に基づく申請……に対し相当の期間内に何らの処分……がされないこと」(行訴法37条の3第1項1号)に該当し、任用しない旨の通知があれば、これを「当該法令に基づく申請……を却下……する旨の処分」に該当すると解することとなる。下記条文(22条の2の6第1項)は、このことを確認的に規定するものである。

これにより、現在、裁判所が救済を拒否する場合の論理である「新たな任用行為がない以上、何もない状態なので、救済の余地がない」という問題は、一応解決することができる[28]

2)審査請求

地公法は、一般職の職員が不利益処分を受けたときに、人事委員会・公平委員会への審査請求という救済の途をもうけている(地公法49条以下)。これは地方公務員の身分保障のためのものであり、労働基本権制限の代償措置の1つともされているところである。この不利益処分には分限免職や懲戒免職も当然含まれるが、期限付き任用職員の雇止めについては、これまで対象とされていなかった。しかし、職員の身分保障の趣旨は会計年度任用職員にも妥当する。よって、会計年度任用職員の無期転換または雇止めに対して所定の申請をしたが任命権者が所定の任用をしないときの救済方法の1つとして、人事委・公平委への審査請求を認めるのが適当である。

この場合、不採用を地公法49条の不利益処分とみなすという方法も考えられるが、人事委・公平委に任命権者への義務づけを請求できるとすることが直截的と思われる[29]

なお、審査請求は、行政訴訟と異なり、適法性のみならず、当不当も審査できるところにメリットがあるが、他方で、人事委・公平委の委員については、地方公共団体ごとに十分な人材を得るのが困難であり、審理ペースも遅すぎて実質的な救済機関たり得ていないとの批判もある。会計年度任用職員の任用が1年以内とされていることを考えると、これではとても間に合わない。したがって、審査請求前置(地公法51条の2)とするのは適当ではなく、当該職員に審査請求と訴訟のいずれも選択することができるとすべきである。

なお、人事委・公平委制度は、地公法適用職員ほどには労働基本権を制限されていない企業職員、現業職員(単純労務職員)、特定地方独法職員には定められていないので、これらの職員についての救済手段は義務づけ訴訟のみとなる。

【条文案】

地方公務員法

(任命権者が任用をしないとき)

22条の26 第二十二条の二の二第二項の申請[30]があった場合において、任命権者が当該会計年度任用職員を期間の定めのない非常勤職員として任用しないときは、当該職員は、人事委員会若しくは公平委員会又は裁判所に対し、任命権者が当該会計年度任用職員を期間の定めのない非常勤職員として任用するよう義務づけるよう請求することができる。

2 前項の場合において、第四十九条の二第一項、同第二項、第五十一条の二の規定は適用しない。[31]

3 前二項の規定は、第二十二条の二の三第一項の申請[32]があった場合について、準用する。

4 前条の申請[33]があった場合において、任命権者が当該会計年度任用職員を再任用しないときは、当該職員は、人事委員会若しくは公平委員会又は裁判所に対し、任命権者が従前の勤務条件と同一の勤務条件で当該職員を任用するよう義務づけるよう請求することができる。

5 第二項の規定は、前項の場合について、準用する。

3)損害賠償

会計年度任用職員が所定の要件を満たしているにもかかわらず、任命権者が「期間の定めのない非常勤職員」の任用をしないときには、義務づけ請求のほか、損害賠償請求も認められるべきである。民間の労働者においても、違法な解雇や雇止めに対して、地位確認請求ではなく、逸失利益や慰謝料等の支払いを求める損害賠償請求が認められている。

この点、前掲大阪大学事件最高裁判決は、特別の事情により、「誤った期待」を抱かせた場合にのみ損害賠償請求の余地を認めるとしているが、これは本提言で述べた会計年度任用職員の雇止めに対する救済方法がないことを前提としている。本提言で述べた制度が設けられたあかつきには、この制度に対する期待は法律上保護されるべきであるから、任命権者がこの期待権を侵害したときは、損害賠償責任を負うことは当然といえる。

8 定数との関係

現行法では、正規職員の定数は条例で定めることとされている一方で、臨時職員や会計年度任用職員を含む非常勤職員は、定数の範囲外とされている(地方自治法172条3項)。正規職員の定数を条例で定める趣旨は、予算による民主的統制は当該年度にしか及ばないことから(会計年度独立の原則、地方自治法208条)、条例で公務員の総数を制限し、大枠としての人件費の限度を画することにより、年度を超えて財政民主主義の理念を徹底することができるとの点にある。他方、臨時・非常勤職員を定数の範囲外とする趣旨は、これらの職員が、当該会計年度中に採用されかつ退職する職員であることから、予算のみで議会の統制を及ぼすことが可能であるとの点にある(ただし、当該説明は、再度の任用により継続勤務をしている職員が多数存在する現実を踏まえていないとの批判もある。)。

本立法提言における「期間の定めのない非常勤職員」は、会計年度を超えて定年まで働き続けることが保障される職員であるから、財政民主主義の観点からすれば、当該職員の人数(人件費)は議会のコントロール下に置かれるべきであり、上記の理解を前提にすると、定数条例における定数の範囲内とすることとなる。

もっとも、すでに定数の上限ぎりぎりの人数の職員が働いているような場合に、無期転換等により、会計年度任用職員が定数内の「期間の定めのない非常勤職員」に変更されるとなると、その時点で定数条例に抵触する状態が現出することになる。今日、ほとんどの自治体の職員数はいわゆる自治体リストラにより定数を下回っていることが多いといわれているので、あまり現実的な問題は起こりそうにはないが、そのような事態が生じる可能性も否定はできない。しかし、定数の上限は、組織管理・定数管理にあたる行政機関に対する行政内部の行為規範にすぎず、無期転換等の結果、仮に定数を超える職員が生じたとしても、過員という事実が存在するだけで、当該職員の任用が違法になるわけではないと解すべきである。例えば、正規職員が免職され後にこれが取り消された場合にも同じ問題が生じうるが、この場合、取消しにより定数を超えたとしても任用は維持されると解されている。そうであれば、会計年度任用職員を救済する場面においても別異に解すべき理由はない。

なお、過員という事実が生じているとすると、分限免職処分の可能性が出てくるが(地公法28条1項4号)、安易に分限免職処分が行われるべきではない。当局としては、法の趣旨を踏まえ、過員(定数違反)の状態を解消するために、定数条例の改正案を議会に提出する義務を負うと解すべきである。

このように、定数を理由に会計年度任用職員の救済の途を閉ざすことは許されない。

また、会計年度任用職員はこれまで定数外とされてきたこともあって、当局により調整弁として安易に用いられてきたという面がある。こうした、非正規公務員の人数を「0」とカウントできる現在の運用は、欧米主要国におけるあり方とは異なるものとされている。

そこで、前述した現行法(地方自治法172条)自体を見直すことも検討されなければならない。会計年度任用職員を定数外とする現行法の見直しを行えば、前述した「期間の定めのない非常勤職員」に移行した場合の過員の問題はほとんど生じなくなるともいえる。

見直しの方向性としては、①多くの会計年度任用職員が年度を超えて再任用されている現実を踏まえ、会計年度任用職員も定数に入れた上で定数規制を行う方向性や、②正規公務員も含めて、全ての公務員を定数ではなく予算(人件費)で規律する方向性など、複数の方向性が考えられる。一長一短があるため、いずれの方法が望ましいのかは、引き続き当弁護団としても検討を続けることとしたいが、さしあたり、以下では、①の案を採用した場合の条文案を記載する。

【条文案】

地方自治法

172

3 第一項の職員の定数は、条例でこれを定める。ただし、臨時又は非常勤の職(地方公務員法第二十二条の二の会計年度任用職員、同法第二十二条の二の二及び同法第二十二条の二の三の期間の定めのない非常勤職員の職を除く。)については、この限りでない。

9 均等均衡待遇

1)パートタイム会計年度任用職員への手当支給を制限しないこと

地方自治法は、非常勤の職員(パートタイム会計年度任用職員を含む)には「報酬」及び「費用弁償」を(同法203条の2第1項、3項)、常勤の職員(フルタイム会計年度任用職員を含む)には「給料及び旅費」を(同法204条1項、2項)支給すべきものとし、さらに、パートタイム会計年度任用職員には「期末手当又は勤勉手当」を(203条の2第4項)、フルタイム会計年度任用職員には各種手当を(同法203条4項)、それぞれ支給することができるとしている(いずれも条例でこれを定めることが必要である。同法204条の2)。

しかし、会計年度任用職員のフルタイムとパートの違いは、勤務時間が常勤職員と「同一」か否かであり(地公法22条の2第1項参照)、それだけの理由で、取扱いにこれだけの格差をもうけるべき根拠はない。

会計年度任用職員に対する給付は、フルタイム・パートを問わず、常勤職員のそれに統一されるべきであり、具体的には、地方自治法203条の2ではなく、両方とも同法204条が適用されるべきである。

【条文案】

地方自治法

203条の21項括弧書きの「第二号」を「各号」に改める。

同条4項を削除する。

同法204条第1項の「地方公務員法第二十二条の二第一項第二号」の「第二号」を「各号」に改める。

2)不合理な格差の禁止

職員の給与は、職務と責任に応じたものでなければならず(地公法24条1項)、これは一般職である限り、会計年度任用職員においても変わるところはない。

しかし、実際には、会計年度任用職員の給与は、常勤職員と比べて著しく低いのが実情である。それなのに、これまで公務員について最賃法の適用すらなかったのは、国・自治体は模範的な使用者である(「官は悪をなさず」)というフィクションがあったからといわれている。それがまったくの幻想であり、給与が最低賃金を下回っていた茨城県の自治体のようなケースすら発生し、そこまでいかなくとも、「官製ワーキングプア」が大量に生み出されてきたことは周知のものとなってきている。

そこで、その是正のための1つの方法として、民間のパート有期法と同様の仕組みが必要である。

ところで、給与の具体的な金額等は条例によって定められるが(地公法24条5項)、議会の条例制定権に一定の裁量が認められるべきであるとしても、均等均衡待遇という理念が労働法における普遍的原理とされていることをふまえれば、条例制定権がこれらの制限に服すべきは当然である。

そこで、地公法25条の次に、会計年度任用職員の給料・手当について、パート有期法8条・9条と同様の規定を置くべきである。

【条文案】

地方公務員法

(会計年度任用職員の給料・手当)

25条の2 会計年度任用職員(第二十二条の二の三により期間の定めのない非常勤職員となった者を含む。以下、本条について同じ。[34])の給与その他の勤務条件のそれぞれについて、当該勤務条件に対応する常勤職員の勤務条件との間において、当該会計年度任用職員及び常勤職員の職務の内容及び責任の程度その他の事情[35]のうち、当該勤務条件の性質及び当該勤務条件の目的に照らして適切と認められるものを考慮して、第十三条及び第二十四条一項の趣旨も踏まえ、不合理と認められる相違を設けてはならない。

2 前項の不合理性を判断するにあたっては、第十三条、第十四条一項、第二十四条一項及び同条二項の規定内容が考慮されなければならない。[36]

3 職務の内容及び責任の程度が、その任期ないし定年までの期間の全期間において常勤職員と同一と見込まれる会計年度任用職員については、会計年度任用職員であることを理由として、給与その他の勤務条件のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

4 前三項の規定は、第二十二条の二第一項第一号に掲げる職員の給与その他の勤務条件のそれぞれについて、同項第二号に掲げる職員との間において、準用する。[37]

3)勤務条件の内容の説明義務

会計年度任用職員の処遇改善のためには、使用者に待遇の相違の内容及び理由等の説明義務を課す規定(パート有期法14条2項)と同様の規定を新設するのが望ましい。もっとも、勤務条件条例主義(地公法24条5項)からすれば、本来、説明義務を負うのは議会といえるところ、個々の会計年度任用職員からの求めに応じて議会が説明義務を負うとするのには無理があるので、地公法25条3項の条例事項に、「勤務条件の相違の内容及び理由」を付加するのが適当である。

【条文案】

地方公務員法

2536号の次に、以下を挿入する。

「七 会計年度任用職員の給与を定めるにあたっては、会計年度任用職員と常勤職員との間の勤務条件の相違の内容及び理由」

4)救済方法その1損害賠償・条例無効確認等)

旧労契法20条違反の効果について、ハマキョウレックス事件・最二小判平成30年6月1日労判1179号20頁は、契約補充効を否定し、損害賠償として処理すべきものとした。旧労契法を承継したパート有期法8条についても、同様に解されると思われる。

さらに、公務員の場合には勤務条件条例主義とされていることもふまえれば、地公法25条の2違反の場合に、条例の改正を待たずに給与請求権を認めるのは困難であると思われる。

よって、司法上の救済は、まずは損害賠償によるものとされるだろう。

しかし、不合理の程度が著しい場合には、違法な給与条例の無効確認請求(条例施行6か月以内なら条例取消請求も)も認められるべきと考える。

5)救済方法その2(人事委員会・公平委員会)

給料・手当の不合理な相違は、勤務条件に関することなので、人事委員会または公平委員会に対する措置要求の対象ともなる。これは現行法でも当然のことであるが、問題は、期限付き任用の職員が措置要求をしても、判断がなされる前に任期が終了して身分を失った場合、人事委員会・公平委員会が審理を打ち切ってしまうおそれがあることである[38]

この場合について明文上の定めはなく、身分を失ったからといってただちに不服の利益が失われるとも思えないが、事実上の障害となっていることは否めない。

そこで、会計年度任用職員が退職した後でも、措置要求手続が継続できるよう、明文で定める必要がある。

なお、これは会計年度任用職員に限られず、すべての職員に妥当することでもあるので、地公法47条の次に、以下の条文(当弁護団の立場からは確認規定)を新設すべきである。

また、措置要求に対する判定に不服があるときの取消訴訟についても、同様に訴えの利益を明らかにするために、同様の定めを置くべきである(条文案第47条の2第2項)。

さらに、措置要求を行ったこと等に対する報復として雇止め等の不利益取扱いがなされる危険があるため、これを防止する条文も新設すべきである(措置要求全般の問題であるため、第46条の2とした)。

【条文案】

地方公務員法

47条の2 人事委員会又は公平委員会は、第四十六条の要求について審査が行われている間に当該要求を行った当該職員が退職した場合においても、当該職員に、判定及び判定の結果執るべき措置を求める利益が存する限りは、審査及び判定の手続を継続しなければならない。

2 第四十六条の要求をした職員は、その後退職したとしても、退職したことを理由として当該要求に対する判定の取消しを求める法律上の利益を失わない。

 第46条の2 前条の要求、並びにこれに対する判定の審査請求及び取消しを求めることは、職員の採用、任期の更新、その他職員の勤務条件の決定に際し、不利益に取り扱われてはならない。

 

10 短時間公務員制度について

当弁護団の知る限り、いずれの公務員産別組合も、「短時間公務員制度」の創設を求めている。

これは、正規職員が、出産・育児、介護などのライフステージに対応して、ワークライフバランスを維持するための選択肢として求めているもののようである。それは、育児や介護等の必要があるときに、当該職員が短時間勤務を選択し、その必要がなくなったときは当該職員の選択によりフルタイムに戻れるようにする、というイメージかと思われる(1994年ILOパート労働条約(未批准)参照)。

今日の社会においてこうした制度導入が強く要請されていることは疑いないが、この制度は、現在働いている会計年度任用職員の身分保障と処遇改善をはかるものとは一応別のものと考えられることから、本提言では取り上げるのを見送った。この点については、他日を期することとしたい。

11 結論

非正規公務員の身分保障と処遇改善は、これらの職員を不安定かつ劣悪な立場から解放することにより、労働者としての尊厳を取り戻させ、その生活の安定をはかることはもちろん、当該職員の士気を高め、国民・住民に充実した行政サービスを提供するためにも、喫緊の課題といえる。

本提言では、さしあたり、地公法の会計年度任用職員について論じたが、同様の措置は、国公法上の期間業務職員についても求められる。

関係各位におかれては、早急にこれを立法課題ととらえ、一日も早く、その実現に向けた検討を開始されることを切望するものである。

[1] 日本労働弁護団「有期労働契約法制立法提言」(2009年10月28日、下記URL)。

「有期労働契約法制立法提言」

[2] かかる問題への対応や、そもそも会計年度任用職員のみならず公務員全体の労働基本権が制約されていることが問題であること等について、日本労働弁護団「会計年度任用職員制度に対する意見書」(2020年3月4日、下記URL)参照。

会計年度任用職員制度に対する意見書

[3] 総務省自治行政局公務員部「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」(平成30年10月)においても、「各地方公共団体における公務の運営においては、任期の定めのない常勤職員を中心とするという原則を前提とすべき」とされている(7頁)。

[4] 総務省は、会計年度任用職員は、フルタイム・パートいずれも「非常勤の職」と整理している。

[5] 栃木県・県知事(土木事務所職員)事件・宇都宮地判令5.3.29労判1293号23頁は、辞職承認処分(これも行政行為)の前提となる「退職願」は「職員の意思に反したものでないことを確認するための一手続」としている。

[6] これに対して、議論の経過では、分限・懲戒事由が存する場合にも常に任命権者に採用を義務づけるのは行き過ぎであり、地公法28条1項所定の分限事由(ただし、分限免職相当の場合に限る)または同法29条1項の懲戒事由(ただし、懲戒免職相当の場合に限る)が存する場合は、以下のとおり、例外とすべきとの意見も出された。

ア 地公法28条1項1~3号所定の分限事由がある場合

地公法28条1項1~3号所定の分限事由(能力・適格性の欠如)がある場合には、成績主義の観点から「期間の定めのない非常勤職員」とすることが適当ではない場合がある。

もっとも、それは、分限免職相当の事由がある場合に限られるべきである。

また、会計年度任用職員として任用される際に一定の能力の実証がなされていたことをふまえれば、当該会計年度任用職員がその職について能力・適性を有していることは一応推定されることから、任命権者において、当該職員が分限免職相当とされるほど能力・適格性を欠いていることを具体的に証明しない限り、採用義務は免れないとすべきである。

イ 地公法28条1項4号の分限事由がある場合

地公法28条1項4号所定の分限事由がある場合とは、民間の整理解雇に相当する場面である。

このうち、「定数の改廃」は、「期間の定めのない非常勤職員」を定数に含める場合に問題となる(→「8 定数との関係」)。他方、「廃職又は過員」は、当該職(ポスト)が消滅したり(たとえば、ある地方公共団体の全保育所が民間委託され、会計年度任用職員の保育士の担っていた職が消滅するような場合など)、あぶれたりした場合に問題となる。

この場合も、地公法28条1項4号所定の分限事由の該当性の主張立証責任は任命権者にあるが、形式的該当性の主張立証は容易であろう。ただし、この場合でも、任命権者には、同一の地方自治体における他の任命権者の下にある職を含む他の職への転任の可能性を模索し、これを当該職員に打診するなどの免職回避努力義務は求められると解すべきであり、その努力が不十分なまま、無期転換申請に対し、不採用とした場合は、違法となるというべきである。

ウ 地公法29条1項所定の懲戒事由がある場合

地公法29条1項所定の懲戒事由がある場合の例外も、懲戒免職相当の事由がある場合に限られるべきである。停職以下の処分が相当とされる場合とは、公務員の身分を奪うほど悪質な非違行為があったとはいえないと評価されるからである。

この場合の主張立証責任も任用を拒否する任命権者にある。

[7] 地公法22条の2。

[8] 派遣法40条の7は、違法派遣を受け入れていた国・自治体へのサンクションとして「国家公務員法、国会職員法、自衛隊法又は地方公務員法その他関係法令の規定に基づく採用その他の適切な措置を講じなければならない。」と定めているが、その実効性には疑問があることから(大阪医療刑務所事件・大阪地判令4.6.30労判1272号5頁、大阪高判令6.6.26判例集未登載参照)、ここでは、選択の余地なく、「採用しなければならない」とした。

[9] 注6の考え方を採った場合、ここでの法文は「……任命権者は、第二十八条第一項各号の事由(ただし、分限免職相当の事由に限る。)又は第二十九条第一項各号の事由(ただし、懲戒免職相当の事由に限る。)がない限り、 当該会計年度任用職員を期間の定めのない非常勤職員として採用しなければならない。」などとなる。

[10] 注6の考え方を採った場合、採用の方法について定めた地公法17条の2の適用を排除する結果、任命権者は、例外となる分限免職・懲戒免職事由の存否及び相当性については適宜の方法により判断することになる。もちろん、そこに裁量権の逸脱濫用があったときに、その不採用が違法となることはいうまでもない。

[11] 不採用通知が当該職員に対する不利益処分であり、審査請求または抗告訴訟の対象となることを明示する趣旨である(→「7 上記各規制違反の場合に任命権者が任用をしないときの救済方法」)。

[12] 地公法22条の2第4項は、「更新」を当該会計年度内に限るものとし、総務省は、「任期の更新」とは、当該会計年度内において同一の者が同一の職に引き続き任用されるもの、「再度の任用」とは「新たに設置された職」に競争試験又は選考による客観的な能力の実証を経て改めて任用されること、と説明している。しかし、年度が変われば同じ業務をしていても別の「職」である、というのは、いかにも屁理屈であり、「更新」と「再度の任用」の使い分けは“言葉遊び”にすぎない。

[13] 通算任用年数については、さしあたり、労契法18条とパラレルに考えた。

[14] 注6と同様に、ここでも、当弁護団における議論の過程では、無期転換の申請がされた場合に、当該会計年度任用職員に分限免職・懲戒免職相当事由が存する場合にも任命権者に期間の定めのない非常勤職員としての採用を義務づけるのは行き過ぎであるとして、この場合には例外とすべきとの意見もあった。この場合、分限免職・懲戒免職相当事由が存在することの主張立証責任が任命権者にあることも、同様である。

なお、無期転換が問題となる場面は、当該会計年度任用職員が「更新」ないし「再度の任用」を繰り返して一定期間勤務していたことが前提となっていることからすれば、地公法28条1項1~3号所定の分限事由(能力・適格性の欠如)により分限免職が相当といえる事態は、まれにしか考えられないであろう。

[15] 「同一の任命権者」ではなく「同一の地方公共団体」としたのは、同一の地方公共団体においてもいろいろな任命権者があり(たとえば市長、教育委員会、水道事業管理者など)、任命権者を異にして異動する職員もいるので、これらを別のものとして考えるのは不合理と考えられるからである。

[16] 前掲注8。

[17] 前掲注9。

[18] 労契法18条1項第2文は「……現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。」であるが、地方公務員の場合は、勤務条件は条例により定めるものとされている(地公法24条5項)。もっとも、無期転換後も、別の職となるわけではないので、特段の定めがない限り、無期転換前の給料表が適用されると解すべきである(→「5 期間の定めのない非常勤職員の勤務条件」)。

[19] 前掲注10。

[20] 前掲注11。

[21] 労契法18条2項のクーリング期間の規定は維持した。

[22] 現在の裁判所は、任用継続の合理的期待をほとんど認めない(大阪大学事件・最一小判平6.7.14労判655号14頁。近年のものとして、吹田市事件・大阪地判平28.10.12労判1186号75頁、大阪高判平29.8.22労判同号66頁など)。他方、定年後再任用については、合理的期待が認められるケースも多い(日南町事件・広島高松江支判令5.3.29労旬2031号66頁など)。ここでは「国家公務員の雇用と年金の接続について」(平成25年3月26日閣議決定)などが根拠とされている。このように何らかの客観的な根拠があれば合理的期待は肯定されてしかるべきなので、公務員にも労契法19条に相当する立法がなされれば、民間と同程度に合理的期待を認めることは可能と考えられる。

[23] 地方自治体があらかじめ更新上限を定めているケースが広がっているが、これは合理的期待の発生・消滅に関わる問題であり、民間の有期契約の場合と同じ問題がある。

[24] 民間の解雇法理を定めた労契法16条と雇止め法理を定めた同法19条は、同じ言い回しをしているので、本提言もこれにならった。

[25] ここでは会計年度任用職員としての任用となる。

[26] 前掲注10。

[27] 前掲注11。

[28] 仮に入口規制の効果について、期間の定めという附款のみが無効となると解する場合、また、無期転換、雇止め制限の効果について、労契法と同じく、当該職員の申込みに対する任命権者のみなし承諾(みなし任用)規定をもうけるとすれば、当該自治体が当該職員の身分を否定するときは、当該職員は民間と同様に当事者訴訟で地位確認請求ができることになろう。

[29] さらには、人事委・公平委に、任命権者に代わって任用する権限を付与するということも考えられなくはない。分限免職処分や懲戒免職処分についても、人事委・公平委は当該処分が重すぎると判断した場合、これを修正することができ、その場合には当該処分が遡及的に当然に変更される。これは任命権者の権限を一部代行しているともいえる。それと同じと考えてよいのではないかということである。

[30] 入口規制違反のときの申請。

[31] 人事委・公平委への審査請求前置(地公法49条の2第1項、2項、51条の2)を外すことにより、不採用通知(処分)を受けた職員は直ちに裁判所に行政訴訟を提起することもできるようにする。

[32] 無期転換の申請。

[33] 雇止めに対し次期の会計年度任用職員に任用するよう求める申請。

[34] 期間の定めのない(無期転換した)非常勤職員にも適用されるものとした。

[35] 民間と異なり、職務給原則(地公法24条1項)が定められていることから、同原則に沿った条文とし、パート有期法8条の「変更の範囲」については明記しないものとした。ただし、変更の範囲が異なれば、「その他の事情」には含まれ得ると考える。

[36] 不合理性判断にあたって、地公法の定める平等取扱い原則(13条)、情勢適応原則(14条1項)、職務給原則(24条1項)、均衡の原則(同条2項)は当然考慮されるべきである。

[37] パートタイム会計年度任用職員(地公法22条の2第1項第1号)とフルタイム会計年度任用職員(同項第2号)の給料・手当の種類を統一するだけでは、両者間の不合理な格差を是正することにならないので、両者間においても不合理な相違を設けてはならない旨の規定をもうけるべきである。

[38] 橋本勇『新版逐条地方公務員法〔第6次改訂版〕』887頁(学陽書房、2023年)は、「措置要求をした職員が……離職したり、……した場合など審査を継続することができなくなったとき、またはその実益がなくなったときは、人事委員会または公平委員会は職権で審査を打ち切るべきである。」としている。