労働者の権利が不当に制限されない「外国人労働者受入れ制度」の創設を求める声明
2024/6/25
労働者の権利が不当に制限されない「外国人労働者受入れ制度」の創設を求める声明
2024年6月25日
日本労働弁護団幹事長 佐々木亮
1 技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設
2024年6月14日、参議院において出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正法案と「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」(以下、「育成就労法」という。)が可決・成立した。育成就労法は、本法公布の日から原則3年以内に施行されることとなっているところ、今後本法の施行により技能実習制度は完全に廃止され、代わりに、新たに人材確保と人材育成を目的とする「育成就労制度」が創設され、同制度による外国人労働者の受入れが始まることとなる。
2 育成就労制度では技能実習制度における問題が根本的には解決しない
今般成立した「育成就労制度」は、これまで当弁護団が技能実習制度について指摘してきた諸問題を根本から解決するものとは到底言えず、本法案提出後の本年3月28日には反対の声明を発したところである。
すなわち、当弁護団は、技能実習制度の問題として、主に、①技能実習生には転籍、すなわち職場移転の自由が認められていないことが数々の人権侵害を引き起こしてきたこと、②技能実習生の送出しと受入れの過程に民間団体が関与しており、これらの民間団体が悪質なブローカーとして機能し、技能実習生から中間搾取し、そのために技能実習生は来日時に多額の借金を背負っていることを指摘してきたところである。
「育成就労制度」では、上記①の問題について、本人意向による転籍を一定の場合に認めることとしている。しかし、本来労働者には職場移転の自由(憲法22条1項参照)が保障されているのであるから、現行の労働関係諸法令における制限に加えて別途の要件を設けることは、技能実習制度において指摘された上記①の問題を克服するものとは到底言えない。しかも、育成就労制度の運用に当たっては、「育成就労外国人が地方から大都市圏に流出すること等により大都市圏その他の特定の地域に過度に集中して就労することとならないようにするために必要な措置を講ずるものとする」とされており、転籍を可能とする地域を一定枠に制限する規制を別途設けるようにも読める。法制度上、複数のハードルを設けて労働者の職場移転の自由を過度に制限することは、声を上げられない労働者を同じ職場環境においていわば奴隷的に拘束することを容認することにつながるから、断固として容認できない。
また、「育成就労制度」は、監理団体の名称を「監理支援機関」と代え基本的にはその役割を変更していないところ、民間団体が労働者の送出し及び受入れの過程に関与することを排除していない。すなわち、政府は、手数料等が不当に高額とならないような仕組みとあわせて、手数料等を受入れ機関と外国人が適切に分担するための仕組みを導入するとするものの、来日する労働者が手数料を負担する仕組みを前提としているため、上記②で指摘した問題点が根本から解消されるものではない。現在世界各国において関心が高まっている「ビジネスと人権」という観点からも、労働者からの手数料徴収を禁止するILO第181号条約(民間職業仲介事業所条約)に反するような制度を容認すべきではなく、労働者の受入れにおいて、民間団体を関与させる仕組みを前提としない制度設計を、今後積極的に検討すべきである。
さらに、「育成就労制度」においても、現行の特定技能1号においても、家族帯同を認めないこととなっていて、最大で、両制度の合計8年間、家族帯同を認めないこととなってしまう。既に発効している「すべての移住労働者及びその家族の権利保護に関する条約」(日本は未批准)が、締約国に対し、移住労働者の家族の同居の保護を確実にするために適切な措置を採ることを求めていることにも照らせば、育成就労制度においても、特定技能1号においても、家族帯同が認められるべきであって、速やかに改正に向けての検討を始めるべきである。
3 労働者の権利を制限しない受入れ制度が是非とも必要
日本国内で就労する外国人労働者は、2023年10月末時点で204万人となり、初めて200万人を超え、過去最高を更新した。そして、事業所の約55%が従業員数100人未満の中小企業であることからすると、外国人労働者によって中小企業の人手不足が補われている実情は明らかである。また、本年3月29日には、特定技能制度の受入れ分野に、繊維、自動車運転業、鉄道、林業、木材産業を追加することが閣議決定され、今後順次拡大することが予定されている。今後も、育成就労制度や特定技能制度を通じた労働者の受入れは拡大していくことは容易に想定されるところである。
しかしながら、技能実習制度の問題点を克服できない、来日する労働者の権利を来日当初から制約するような制度設計をしながら、政府がこの制度によって日本が「選ばれる国」になるとすること自体矛盾している。このような制度では、日本が「選ばれる」国になるなどほど遠く、日本国内の産業が人手不足によって維持できなくなる可能性も否定できない。
私たち日本社会は、まずは、人手不足を外国人労働者の就労によって補っている社会実態にあることに対して真摯に向き合うべきである。そして、政府は、現実の社会実態を踏まえて、単に短期の労働力として受け入れるのではなく、分野や職能レベルを問わず、労働者、また生活者としての権利が制限されず、手数料の負担が生じないような、安定した就労系の在留資格による受入れができるような制度設計を行うべきである。
日本労働弁護団は、現在日本で働き生活するすべての労働者、そして、今後来日して日本の産業をともに支える労働者の権利を擁護し、労働条件の向上に資するよう活動することを表明するとともに、政府に対して、来日する労働者の権利が制限されない制度設計の検討を速やかに開始することを求める。
以上