中教審「審議のまとめ」で示された方針に反対する緊急声明

2024/5/13

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中教審「審議のまとめ」で示された方針に反対する緊急声明

2024年5月13日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木 亮

 

1 はじめに

中央教育審議会初等中等教育分科会「質の高い教師の確保特別部会」(以下、「特別部会」という。)は、2024年5月13日、「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)」(以下、「審議のまとめ」という。)を取りまとめた。

特別部会は、文部科学大臣からの諮問を受け2023年5月に設置され、約1年間にわたる議論を踏まえ、「教師を取り巻く環境整備に関する基本的な考え方」として「審議のまとめ」を取りまとめたとしており、今後、「教員の処遇改善の在り方」として、公立学校教員の働き方を含む環境整備が図られることが予想される。

しかし、「審議のまとめ」は、公立学校教員の長時間労働を生み出す法的な要因である公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、「給特法」)の現状の枠組みは何ら変更しないものとなっており、教員の長時間労働を是正するためには誤ったものと言わざるを得ない。

2 給特法の廃止または抜本的見直しが必要であること

労働法的観点からみた「審議のまとめ」の最大の問題点は、教職調整額を支給する一方で時間外勤務手当等を支給しないという現状の給特法の枠組みを維持し、むしろ教職調整額を現行の給料月額の4%から10%以上に引き上げるべきとしている点である。

すでに当弁護団も2023年8月18日付「公立学校教員の労働時間法制の在り方に関する意見書」(以下、「本意見書」という。)で指摘したように、公立学校教員の長時間労働の大きな原因は、時間外勤務に従事しても教職調整額以外には一切時間外勤務手当等は支払われず労基法が定める36協定や残業代支払いによる時間外勤務への抑止が機能しないこと、及び、「超勤4項目」以外の業務については時間外勤務を命じることができないという給特法の建前により、勤務時間外に業務に従事し、実態としては労働時間に該当するような場合であっても、「自主的」「自発的」な業務への取組みであるとして労働時間としての管理すらもなされてこなかったことにある。

「審議のまとめ」は、こうした給特法の根本的な問題点から目を背け、むしろ給特法の仕組みは合理性を有すると評価をし、教職調整額の増額による「処遇改善」を掲げて給特法の抜本的見直しを否定している。

しかし、給特法の上記枠組みの下では、実効的に労働時間を管理し長時間労働を抑制する制度的基盤が奪われたままとなる。当弁護団としても、給特法の見直しのみによって直ちに長時間労働が是正されるものではないと考えるが、基盤整備もせず、何ら実効的な改革も示さずに「働き方改革の更なる加速化」を掲げるだけの「審議のまとめ」は、現に長時間労働に苦しむ現場の教員をはじめとする公教育の将来を憂慮する人々を落胆させる内容となっている。

「審議のまとめ」は、上記仕組みを見直して時間外勤務手当を支給することに対しては、教師の職務と勤務態様の特殊性、それに基づく勤務時間管理の困難さ、県費負担教職員制度においては時間外勤務命令を発しないようにするインセンティブが機能しづらいと考えられること等を挙げて否定するが、これらがいずれも給特法の見直しを否定する論拠にならないことはすでに本意見書で指摘したとおりである。

そもそも、平成31年1月25日の中教審答申(「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」)でも、「働き方改革推進法が民間企業においては勤務時間の上限を法定し,罰則によりこれを遵守させる仕組みとするなど労働法制の大きな転換を図ったことを踏まえると,中長期的な課題として,・・・略・・・給特法や教育公務員特例法,地方教育行政の組織及び運営に関する法律といった法制的な枠組みを含め,必要に応じて検討を重ねることも必要である」とされ、さらに、国会審議でも令和元年12月給特法改正時の参議院附帯決議では、「2、3年後を目途に教育職員の勤務実態調査を行った上で、本法(引用者注:給特法)その他の関係諸法令の規定について抜本的な見直しに向けた検討を加え、その結果に基づき所要の措置を講ずること」が指摘されていたところである。その後、現状の給特法の枠組みを維持しては、教員の長時間労働を是正できないことが明らかになっているのであり、今回の「審議のまとめ」の内容は、これまでの中教審の議論の経過・国会審議をも軽視するものといえる。

3 真の長時間労働是正のために

現在、多数の休職者や離職者を生じさせ、教員志願者数の減少や教員不足等を引き起こしている公立学校教員の長時間労働の是正は急務であり、「審議のまとめ」の方針がとられることによって、給特法の廃止等の法的環境整備が見送られることがあってはならない。

また、「審議のまとめ」でこうした誤った方針が示された原因に、委員に当事者である教職員労働組合の代表者が誰一人入っておらず、当事者・労働者側の意見が十分に反映されなかったことがある。日本労働弁護団は、これからも教職員労働組合等と連帯し、一刻も早く給特法の廃止等の真に実効的な改革が行われるよう求めていく。

以上