速やかな技能実習制度の廃止と外国人労働者受入れに関する十分な検討を求める緊急声明

2021/12/7

速やかな技能実習制度の廃止と外国人労働者受入れに関する十分な検討を求める緊急声明

 

2021年12月7日
日本労働弁護団 幹事長 水野英樹

 古川禎久法務大臣は、2021年11月19日の閣議後記者会見において、「出入国在留管理庁が各分野の所管省庁とともに、現場の意向や業界団体等の意見を踏まえつつ、対象分野の追加に関する検討を行っていると承知してい」るなどとし、特定技能2号による外国人労働者の受入れ拡大を検討していることを明らかにした。

 在留資格「特定技能」は、2018年に成立した改正入管法により創設された在留資格であって、その受入れ分野である「特定産業分野」は、現時点において、家族帯同が認められず5年を上限とする特定技能1号は、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・船用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野において受け入れることができ、家族帯同が認められ在留期間の上限がない特定技能2号は、建設、造船・船用工業の2分野において受け入れることができる(平成31年3月15日付法務省令第6号)。そして、2021年9月末時点において38,337人が特定技能1号の資格を取得して日本に在留している。今回古川法務大臣が明らかにした内容は、今後、特定技能2号による受入れ分野を、介護を除く13分野に拡大するというものである(なお、介護分野については、すでに在留資格「介護」(入管法別表第一の二)が存する)。家族帯同が認められない特定技能1号について何らの検討がなされていないままであることは問題であるが、先に指摘した通り、特定技能2号は家族帯同を容認するもので、かつ、在留資格「永住者」を取得することができるようになる資格でもあるため、今回示された政府方針は、外国人労働者の受入れに大きな影響を与えるものであるといえよう。

 ところで、政府は、「特定技能」創設のための入管法改正案提出前である2018年6月15日に「経済財政運営と改革の基本方針2018~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~」を閣議決定しており、その中で、「特定技能」による受入れの前提が「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている」ことにあるとしており、その受入れ業種を「生産性向上や国内人材の確保のための取組(女性・高齢者の就業促進、人手不足を踏まえた処遇の改善等)を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受入れが必要と認められる業種」(同26頁)とするなど、「特定技能」による外国人労働者の受入れは日本における人材不足に対応するためであることを主たる理由として掲げていた。

 しかしながら、政府は5年間で14分野合計345,150人の受入れを目指すとしていたものの、「特定技能」創設後、同資格による受入れは進まず、「特定技能1号」を取得し在留する外国人は2019年12月末時点で1,623人にとどまった。他方で、「技能実習」を取得し在留する外国人は、2018年12月末時点で328,360人であったのに対して、2019年12月末時点では410,972人に上った。この背景には、「特定技能」による受入れよりも、「技能実習」による受入れの方が、送出し側、受入れ側双方にとって、事実上何らの規制も及ばないこととなってしまっている高額な手数料収入を得ることができるというメリットがあるものと容易に推察できる。そして、特定技能1号の対象業務は「相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務」(入管法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄第一号)となっているところ、2021年9月末時点における特定技能1号の資格取得者のうち約80%にあたる30,734人が在留資格「技能実習」からの移行である。このようなことからすると、その目的が国際貢献ある「技能実習」が、事実上、外国人労働者受入れの端緒となっているのが現状であり、今後も、「技能実習」による外国人労働者の受入れには歯止めがかからず、ますます、制度の目的と現実が乖離していくことになることが容易に予想される。

 すでに多くの報道機関を通じて報じられているとおり、「技能実習」には多数の問題が山積している。当弁護団は、これまでも、技能実習制度自体が搾取を生む構造となっていること、また、技能実習生が、労働者として有する権利にとどまらず、基本的人権をも侵害されてきたことについて指摘したところであり、現在も技能実習生に関連する労働紛争は発生し続けている。また、近時は、妊娠をした技能実習生が、実習先又は監理団体から中絶するか帰国するかの選択を迫られたり、そのような恐怖心から、出産した乳児を遺棄するなど、悲惨な事件も発生している。さらに、国際的にも、技能実習制度が人権侵害を引き起こすものとして批判を受けている。

 このように、多くの労働紛争にとどまらず、多数の人権侵害をも発生させる温床になっている技能実習制度は、即刻廃止すべきである。そして、出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律(平成30年法律第102号)附則18条2項では、「技能実習」との関係を含む「特定技能」の在り方について検討することとしているところ、関係各省庁においては、法施行後の実態や「特定技能1号」では家族帯同が禁止されていることや受入れの支援に民間団体が関与することによって生じる問題について十分な検討を行ったうえで、人権侵害を生じさせない外国人労働者の受入れ方法を検討するべきである。

以 上