本業の充実化や副業・兼業労働者に対する適切な保護を実施しないまま副業・兼業を推進することに反対する緊急声明

2019/6/12

本業の充実化や副業・兼業労働者に対する適切な保護を実施しないまま
副業・兼業を推進することに反対する緊急声明

2019年6月12日
日本労働弁護団
幹事長 棗 一郎

1 厚生労働省は、現在、労働政策審議会(労働条件分科会労災保険部会)(部会長:荒木尚志東京大学教授)において、複数就業者への労災保険給付の在り方について現行制度の見直しを進めるとともに、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会(座長:守島基博学習院大学教授)において、副業・兼業労働者の労働時間管理の具体的方法に関する検討を進めている。
 2018年1月に厚生労働省が発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においては、副業・兼業のメリットとして「労働者が主体的にキャリアを形成することができる」「自己実現を追求することができる」といった点が挙げられ、これにより国家的政策として副業・兼業が推進されようとしている。

2 しかし、「新たな産業構造に対応する働き方改革に向けた実態調査」(平成28年度経産省委託事業)によれば、労働者が副業・兼業に従事する理由として最も多く選ばれた理由は、十分な収入を得るため(約45%)であり、事実、雇用者全体の平均年収と比べ、年収額が低い者が副業・兼業に従事する傾向が見られる。総務省の平成29年度「就業構造基本調査」によれば、正規職員の副業者比率は2.0%であるのに対し、非正規職員の副業者比率は5.9%と多い傾向が見られ、追加就業希望者比率も前者は5.4%である一方で、後者は8.5%と、非正規雇用者の方が数多く副業への従事を希望している傾向が見られる。日本全体を見れば、本業(非兼業者をも含む)の形態は非雇用型が18.8%、非正規雇用(パート、アルバイト、派遣、契約社員、嘱託、その他)が32.2%を占め(平成29年度「就業構造基本調査」)、雇用者全体における年収299万円以下の者の割合は、約半数を占めるに至っている(「新たな産業構造に対応する働き方改革に向けた実態調査」(平成28年度経産省委託事業))。
 ここから浮かび上がるのは、もはや日本社会においては、本業だけでは生活をしていくのに十分な収入を得ることができないため、やむなく副業・兼業を余儀なくされている労働者の実態である。

3 政府が、副業・兼業のかかる実態を無視し、キャリア形成や自己実現追求という明るい側面のみを強調して副業・兼業を積極的に推進することは許されない。政府がまず行うべきは、本業に1日8時間従事すればきちんと生活できるだけの収入が得られるようにするための労働政策(最低賃金の大幅な引き上げ等)を検討、実施していくことである。
 その上で、副業・兼業を認めるにしても、副業・兼業労働者の長時間労働を抑制し、副業・兼業労働者の生命・健康を保護するべく、本業先・副業先には客観的な方法でそれぞれの就業先における労働時間を把握させ、長時間労働が認められる場合には労安法所定の健康管理措置を実施することを義務付けるとともに、労基法38条の遵守を厳格に義務付けるべきである。政府内では、割増賃金の算定の場面において、異なる使用者で就労する場合に人単位の労働時間の通算を否定し、使用者単位で通算すればよいとする向きの議論があるようだが、現状でも、副業・兼業労働者の長時間労働抑制は野放し状態にある。割増賃金制度の趣旨は長時間労働の抑制にあるという原則論に立ち返り、長時間労働抑制に相反するような法解釈を行うことは決して許されない。
 また、現状の労災実務では、副業・兼業をしていたとしても、本業先と副業先との労働時間の通算が認められていない上、労災の支給額の算定は、労災に遭った勤務先から得ている賃金のみを基に行われている。そのため、本業と副業とを合わせて過労死ラインを超える長時間労働をしていたとしても、労災としては認められない上、仮に労災認定がされたとしても、労災に遭う前の賃金保障はされないため、被災者は生活の困窮に直面することになる。これでは、安心して副業・兼業に従事することなどできない。国家的な方針として副業・兼業を推進していくのであれば、これまでの実務運用を改め、万が一労災に遭ってしまった場合の補償をきちんと行うための法整備を進めていく必要がある。
 加えて、副業・兼業が社会に浸透し、就労時間の短い雇用が乱立すれば、現状の雇用保険や社会保険の加入要件を満たさない労働者が増えていくことが予想される。副業・兼業を推進するのであれば、雇用保険及び社会保険が全ての労働者にとっての生活保障として機能するものとなるよう、直ちに制度的な手当てを行うべきである。

4 日本労働弁護団は、本業の充実化や、副業・兼業労働者の保護を適切に実施しないまま、国家的方針として副業・兼業を漫然と推進していくことには断固反対である。政府は、労働者が副業・兼業に従事しなければならない実態や現行制度の問題点を直視し、早急に適切な労働政策を実施するべきである。

以 上