育児介護休業法改正にあたり育児分野に関する意見書

2015/11/13

労働政策審議会雇用均等分科会会長 田島 優子 様

 

育児介護休業法改正にあたり育児分野に関する意見書

 

20151111

 

日本労働弁護団幹事長             
棗   一  郎

日本労働弁護団女性PTリーダー  橋本 佳代子

 

2015928日より、労働政策審議会雇用均等分科会にて育児介護休業法(以下「現行法」という)改正に向けての審議が開始している。

当弁護団及び同弁護団女性PT(プロジェクトチーム)には、出産を経て職場復帰しようとする労働者や子を抱えて就労する労働者から、多くの労働相談が寄せられている。当弁護団としては、かかる労働者を通じ、労働現場の実態を熟知する立場から、現行法のうち育児分野に関する次の改正において、少なくとも以下5点の改正は必至と思料する。

 

   期間を定めて雇用される労働者(以下「有期労働者」)の育児取得要件の緩和

(育児介護休業法第51項の改正)

(1) 現状

現在、育休取得者の大半が女性であるところ、女性労働者の6割が非正規である。しかも、出産・育児をする割合が相対的に多い世代である25歳~34歳の女性の非正規化も進んでいる(2014年は42.14%に及ぶ[1])。

2014101日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む)のうち、女性の有期契約労働者(以下「有期労働者」という)の育児休業の取得割合は75.5%である[2]

しかし、この分母に出産前に退職した女性は含まれない。むしろ、1子出産を機に退職する労働者の割合は約60%と、20年前から改善は見られない[3]。さらに、有期契約の雇用形態を取ることが大半のパート・派遣労働者で見れば、その育児休業取得率はわずか4.0%である。[4]

よって、実質的に、妊娠・出産前に働いていた有期契約労働者のうち、就業を継続して育児休業を取得できた者は極めて限られているといえる。

 

(2) 要件緩和の具体的内容

有期労働者の育児休業取得率の低さは、期間の定めという契約の性質上、雇止めによって一方的に契約を打ち切られるなど、そもそも就業継続そのものが困難であることに加え、一定程度就労継続する者であっても、「見込み」といった不確定要素が要件とされるなど、現行法上の育児休業取得要件が厳しい[5]ことが大きな要因であるといえる。

非正規労働者が3分の1を優に超えて久しい中、今後益々進行する労働力不足に対応するためには、現行法の要件を緩和し、男女問わず非正規労働者にも広く育児休業取得を認めることが急務である。

要件の具体的内容については、少なくとも以下のとおりとすべきである。

 

① 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年以上であること(現行法①と同じ)

 

② その養育する子が一歳に達する日を超えて引き続き雇用されないことが明らかではないこと

 

有期労働者の中には、3か月、1か月など、1年に満たない細切れの契約期間(以下、「細切れ期間」という)を事実上強いられている者も少なくない。

かような「細切れ期間」の有期労働者については、「当該子の一歳到達日から一年を経過する日」はおろか、「養育する子が一歳に達する日」に至るまでに、複数回(契約期間1か月の場合、少なくとも10回超)契約更新されねばならず、そうした更新を経て「同期間を超えて引き続き雇用されること」が「見込まれる」かどうかなど、そもそも極めて不確定と言わざるを得ない。したがって、現行法上、「細切れ期間」の有期労働者は、その契約期間の設定そのものからして、育休取得の対象から必然的に排除されるシステムとなっていると言っても過言ではない。

一方、有期労働者の実際の契約期間は繰り返し更新され、1年以上にわたり雇用継続することも少なくないのが実情である。

現行法要件①(当弁護団の掲げる要件①と同じ)を充足した有期労働者については、それまでの間に事業主による期間満了による雇止めもあり得たところ、事業主がかかる権限を行使せず契約期間を更新し1年以上勤務させた場合は、妊娠出産等がなければ、その後も引き続き相当期間、雇用継続が「見込まれる」ケースであることが大半であるとみるべきであって、実質現行法要件①をもって同法要件②も充足すると捉えるべきである。

もっとも、当事者合意の下、契約更新されないことが明らかにされている場合は除外せざるを得ないが、それについては当弁護団の掲げる要件②を定めれば必要にして十分、といえる。

 

 
時短勤務可能期間の延長

(育児介護休業法第23条の11項の改正)

 現行法上、所定労働時間の短縮(以下「時短」)措置が義務化されているのは、「3歳に満たない子を養育する労働者」のみである。

しかし、3歳までとその後では子との関わり方に違いはあれ、保育先への送り迎え・寝かしつけ等、育児の時間・時間帯そのものに大きな変化はない。当弁護団には、出産後せっかく就労継続できても、3歳を機に、事業主の時短制度がなくなることで、育児との両立が困難となり、そのタイミングで離職せざるを得ないとする労働者の声が多数寄せられており、いる。

 さらに、現状の学童保育(児童クラブ)の時間設定(平日の平均的開設時間は午後620分まで[6])からすれば、子が就学すると、むしろ、就学前の保育先ほど長時間子を預けることができなくなるのが通常である。しかも、「小1の壁」と評されるように、学童保育も、今だ希望者全員が入ることができる状況にはない。

 保育環境を脱し、親が仕事を終えて帰宅するまで一人で過ごすことが可能な程度に習熟するのは、せいぜい小学校高学年に達した場合であって、時短措置義務の適用対象は、少なくとも「小学4年生に満たない子を養育する労働者」と改正すべきである。

 

3 時短勤務制度における「育児コアタイム」への配慮義務の新設

 (育児介護休業法新項目の創設)

現在、時短勤務については、その時間帯(始業時刻・終業時刻)の設定に関し、深夜労働を禁止する以外の制限はない。そのため店舗や工場等で勤務する労働者など、例えば午後2時から午後10時勤務の者は、時短勤務制度を利用しても、前後1時間を短縮することしかできない。

そうすると、多くの保育先では延長保育をしたとしてもお迎え時間に間に合わず、実質的に保育先にて子を預けて働くということそのものができなくなる。

「子の生活時間」及びそれを養育する「親としての育児時間」は、その就労いかんにかかわらない「人としての営み」のための時間であるところ、そのうち、少なくとも、保育先に子を預ける親が、保育園へお迎えに行き、子を寝かしつけまでの生活時間(概ね午後6時から午後10時)は、「育児コアタイム」として、育児のための欠かせない最低限の生活時間であるといえる。

時短勤務制度を選択する労働者は、育児と仕事との両立を図るべく当該制度を選択しているのであって、にもかかわらず、かかる「育児コアタイム」にかぶさる時間帯の時短勤務の設定を許容することは、その趣旨を没却するものと言わざるを得ない。

よって、特段の事情を有する場合を除き、事業主としては、時短勤務の時間設定にあたり、例えば、労働者がその子を預ける保育所へ、同所所定のお迎え時間に行くことができるよう終業時刻を設定するなど、かかる「育児コアタイム」を侵害することのないよう、配慮義務を新たに創設すべきである。

 

 
育児休業後の原職及び原職相当職への復帰の措置義務化

子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針第二・七()の改正)

 現行法では、同法22条に基づく事業主の雇用管理等に関し必要な措置を講ずるに当たり、「育児休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われていることに配慮すること」とされるにとどまる(同法指針第二・七(一))。

当該労働者の産休・育児休業期間中の代替要員として、新規雇用された者がいる等との理由で、当該労働者の意に反し、育児休業後に従前と異なる職場に異動させる例が散見されるが、「配慮」という現行法のままでは、当該労働者を原職ないし原職相当職へ復帰させなくても、直ちに同法違反とはされない。

慣れ親しんだ産休前の職場で、引き続き産休前から築き上げたキャリア形成を図りたい、そうした需要が多いゆえに、当該規定が設けられたであろうところ、当弁護団のもとには、産休前の当該労働者のキャリア形成を断絶され、当該労働者のモチベーションダウンをもたらし、離職を選択せざるを得なかったとする声も多く寄せられている。

育休後の復帰そのものを拒むことは許されぬところ、事業主側は、復帰そのものを拒まずとも、通勤に長時間かかる部署や上記育児コアタイムが侵害される労働時間となる部署への異動を命じることで、事実上その意図を遂げることができるのであって、当弁護団にはそうした相談も後を絶たない。

 よって、労働者が希望しても原職又は原職相当職への復帰を拒絶する措置は、不利益取扱いとして許されない旨を明記することが必要といえる。

 

5 看護休暇の分割取得

 (育児介護休業法第16条の2の改正)

 現行法では看護休暇の取得は1日単位でしか認められていない。看護休暇は、それ自体数時間も要しない、子の予防接種、健康診断受診にも利用しうるところ、このような場合に終日分無給扱いとなるのでは、労働者の看護休暇取得を躊躇させることにもなる。

 よって、看護休暇を時間単位で取得することができるように改正すべきである。

                                      



[1] 総務省統計局平成26年労働力調査年報

[2] 平成26年雇用均等基本調査(確報版)

[3] 国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2010年)

[4] 同上。直近「2005年~2009」の値。

[5]現行法上の有期労働者の育休取得要件(第5条第1項)

①当該事業主に引き続き雇用された期間が一年以上であること

②その養育する子が一歳に達する日(以下「一歳到達日」という。)を超えて引き続き雇用されることが見込まれること

③当該子の一歳到達日から一年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことが明らかでないこと

 

[6] 国学童保育連絡協議会2012年調査。