日本航空の整理解雇に対する緊急声明

2010/11/29

日本航空の整理解雇に対する緊急声明

 

1 日本航空インターナショナル(以下、「日本航空」という)他2社は、本年1月19日をもって会社更生手続開始申立てを行い、同日開始決定を受けた。そして、8月31日には管財人により更生計画案が東京地方裁判所に提出された。更生計画案は、労働者の雇用について、グループ全体の従業員の48,714人の約3分の1に当たる従業員を削減し、2010年度末までに約32,600名体制とすることを明記している。

 この間の報道によれば、日本航空は、3次にわたる希望退職募集を行ったが人員削減目標に達しなかったとして、運航乗務員110名、客室乗務員90名、休職者50名の合計250名の整理解雇に踏み切ることを経営会議において決定し、本年1115日には正式に労働組合に整理解雇の人選基準(案)の提示を行った。日本航空は、希望退職募集を継続するとしつつ、目標未達の場合には整理解雇を実施することを明らかにしている。

2 日本航空が会社更生手続開始決定を受けたことを理由に、あたかも人員削減が当然であり、整理解雇は有効となるかのような見解が流布されている。しかしながら、企業が法的な再建手続を開始したとしても、整理解雇法理は引き続き適用されるものである。会社更生手続開始決定がなされたからといって、整理解雇の4要件が緩和されたり、無視されたりしてはならない。このことは判例上も明確に認められている。

最近でも、民事再生手続開始決定後、事業の一部門(紡績業)を廃止することに伴い、同部門の労働者全員を整理解雇した事案(いわゆる山田紡績事件)において、名古屋地裁は、2005223日整理解雇の4要件(要素)、すなわち、①人員削減の必要性、②解雇回避努力の履践(ないし人員削減として解雇を選択する必要性)、③被解雇者選定基準の合理性、④解雇手続の妥当性につき審理をし、当該解雇がこれら全ての要素を満たしておらず、整理解雇法理をないがしろにする極めて乱暴な解雇であるとして違法無効と断じた。この控訴審である名古屋高裁も、2006117日判決で「再生計画案提出時の経営状況に関しては、…(中略)…債務超過や破産状態であるか否かは、整理解雇の効力を判断するに当たり、4要素の一つである『人員削減の必要性』の一事情として考慮されることは当然としても、そのこと自体で、4要素の履践の要否や解雇の正当性の有無の判断を不要としたり、またその判断に直接影響を及ぼす事情ではない」として解雇を無効とした。最高裁も、この名古屋高裁の判決を是認して、労働者の勝訴が確定している。

3 このように企業が法的再建手続の過程にあっても、整理解雇については整理解雇の4要件(要素)が厳格に適用されなければならないことは判例上確定しており、本件においても、これら4要件(要素)が具備されているか、厳格に判断されなければならない。

 特に、報道によれば、本年1022日の第2次希望退職募集の締め切り時点で、合計1520名の希望退職への応募があり、当初日本航空本体の削減目標としてきた1500名を超過達成していることに照らして、人員削減の必要性には疑問があり、より慎重な判断が求められる。また、整理解雇に踏み切る前に、一時帰休やワークシェアリングなど、解雇を回避する手法が存在しないかも十分に検討されなければならない。

4 日本航空は、今なお我が国における中核的航空会社であり、今後も航空事業を継続することが更生計画の前提となっている。日本航空が今後とも公共交通機関としての使命を果たしていくためには運航の安全を確保することが絶対の条件であることは言うまでもない。この整理解雇による人員削減が、運航の安全に影響を与えないかを慎重に吟味するべきである。

5 日本航空の再生にむけては企業と労働者が合意し一致して取り組んでいくことが不可欠であり、日本航空はこの観点で労働者・労働組合と真摯に協議を行っていくことを強く求めるものである。

                             以上

20101129

 日本労働弁護団

  幹事長  水 口 洋 介