「職務発明制度の見直し」に反対する声明

2015/1/26

「職務発明制度の見直し」に反対する声明

2015年1月26日

日本労働弁護団会長 鵜飼良昭

 

産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会は、20143月より、特許制度に関する諸論点について審議を行い、同年1225日に開かれた第11回会議において「我が国のイノベーション促進及び国際的な制度調和のための知的財産制度の見直しに向けて(案)」との報告書案(以下、「報告書案」という。)を公表し、本年115日までパブリックコメントの募集を行った。

 報告書案において、職務発明制度の見直しとして、①職務発明に関する特許を受ける権利について、現行制度を改めて、初めから使用者等に帰属するものとすること、②職務発明に関する特許を受ける権利については、使用者等に対し、契約や勤務規則等の定めに基づき、発明のインセンティブとして、発明成果に対する報いとなる経済上の利益(金銭以外のものを含む)を従業者等に付与する義務を課すことを法定すること、③政府は、インセンティブ施策の策定の際に使用者等に発生するコストや困難を低減し、法的な予見可能性を高めるためガイドラインを策定すること、使用者等はインセンティブ施策について、政府が策定したガイドラインの手続に従って従業者等との調整を行うことを内容とする特許法改正の方向性が意見されている。

 しかし、労働弁護団として、①から③の改正の方向性に反対する。その理由は以下のとおりである。

 現行法における対価請求権は、労働の成果に対する対価たる性質を含むものであって、使用者等からの報償的な金銭給付ではない。特許を受ける権利を使用者等帰属の法制度に改正することは、従業者と使用者との情報力・交渉力格差があるなかで適正なインセンティブ施策が定められる保障がないにもかかわらず、現行制度を労働者側に著しく不利益に変更するものである。

 また、政府提案が現行法を見直す必要性の根拠としてあげる「二重譲渡」「特許を受ける権利が共有に係る場合の帰属の不安定性」は、他社との共同研究による場合の帰属に関する事前合意の策定など現行法の運用の改善や不正競争防止法による対応で足りるものであり、2004年改正後の判例の蓄積もないなか、使用者等帰属への改正を必要とする立法事実はない。

 労働弁護団としては、「発明行為を行うのは自然人たる従業者である」ということを前提に、特許を受ける権利の従業者等帰属を定める現行法を改正すべき理由はなく、改正の方向性に反対の意を表明するものである。