実効性ある派遣労働者保護を実現できる労働者派遣法改正を求める決議

2008/11/15

 

実効性ある派遣労働者保護を実現できる労働者派遣法改正を求める決議

  1. 2007年11月10日に開催された総会で、弁護団は「派遣規制の更なる緩和に反対し、派遣規制の一層の強化を求める決議」を挙げ、派遣労働者保護の観点からの派遣規制の抜本的見直しを訴えた。
     その後の派遣労働を巡る情勢は、派遣労働者を保護せよ、そのためにも派遣規制を強めよという世論をさらに高め、政府は、08年7月28日の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」意見、同年9月24日の労働政策審議会建議、それを踏まえた改正案要綱に対する労働政策審議会答申を経て、同年11月4日、労働者派遣法改正法案を国会に上程した。
     しかしながら、この改正案は、①日雇派遣対策として30日以内の期限付雇用労働者の派遣を原則禁止するに止め(政令により認めた業務については除く)、むしろ日雇い派遣を公認していると言っても過言でないこと、②登録型派遣は禁止せず、その常用化について派遣元事業主に努力義務を課すに止めたこと、③派遣労働者の待遇確保についても均等待遇を明記せず、単に派遣元事業主の努力義務に止めたこと、④いわゆるマージン規制についても上限規制はせず、平均的なマージン率の公開義務を課すに止めたこと、⑤グループ企業(親会社及び連結子会社)内の派遣会社が当該グループ企業に人員を派遣するいわゆるグループ派遣が許される範囲を8割以下とし、事実上現状を追認する内容となっていること、⑥違法派遣・偽装請負等の受入を行った派遣先に対する規制として雇用みなし規定ではなく、雇用申込み勧告を行うに止めたことなど、違法状態と派遣労働者の劣悪な労働条件が蔓延している現状を改善するにはほど遠いものであると断ぜざるを得ない。
     そればかりか、この法案には、期間を定めないで雇用される派遣労働者(但しいわゆる専門業務に限る)について、労働契約申込み義務の適用対象から除外することや、期間を定めないで雇用される派遣労働者に対する特定行為(事前面接等)を解禁するなどの、派遣法の本来の枠組みを逸脱し、かつ派遣労働者保護の観点から改悪と言わざるを得ない内容も含まれている。
  2. 労働者派遣法は、それが建設業法や石油業法等と同種のいわゆる「業法」として成立したことに象徴的に示されるように、本来制定と同時に定められるべきであった、常用代替禁止の原則、派遣先の実質的使用者としての責任、派遣労働者の権利保護等のあるべき規制をほとんど置き去りにしてスタートした。制定当初、派遣労働者の劣悪な労働条件、常用代替が今ほど顕在化しなかったのは、その対象業務が専門的知識・経験を必要とする業務に限定されていたことにより、派遣労働者を常用労働者に置き換える必要性が少なく、かつ派遣労働者が労働市場の競争によるダンピングに晒されにくかったからに過ぎない。
     ところが、1999年改定によって対象業務が原則自由化されたことによって、スキルを必要としない業務を対象業務にするという質的転換がなされ、派遣労働は、「どんな業務でもよい」労働、「誰でもよい」労働になり、さらには2003年に対象業務が製造業にも拡大されたことで、派遣労働は、完全に安売り商品・使い捨て商品化するに至った。
     その結果が、労働力の究極的コンビニ化たるスポット派遣・日雇い派遣であり、派遣労働者の雇用・労働条件の劣悪化と派遣労働者に対する無権利状態の広がりであり、常用労働者と派遣労働者の入れ替え(常用代替)の加速だったのである。
     そうであるならば、派遣法の改正は、派遣法には派遣労働者保護の観点がそもそも「不存在」であったことを率直に認識し、派遣労働者がおかれている悲惨な現状を改善するために実効性のあるものとして策定されなければならない。
  3. その観点からするならば、派遣法の改正は、次の観点、内容に沿ってなされなければならない。
     第1に、雇用は本来直接・無期限であることが原則であり、間接雇用、有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的にする特段の事情がある場合に限り許されるものであるという原則を、派遣法の中でも明記し、確認しなければならない。
     第2に、上記雇用の原則に照らして、労働者派遣の許される範囲・期間を改めて見直し、派遣労働が許される場合を、常用代替が防止でき、派遣労働者の権利が保障できる業務に限定すると共に、雇用が極めて不安定となる登録型派遣は禁止すべきである。
     第3に、これまで違法派遣・偽装請負で派遣された労働者の権利救済が不十分であったのは、受け入れ先の雇用責任が曖昧であったことに鑑み、違法派遣・偽装請負を受け入れた派遣先と派遣労働者間の雇用みなし規定の創設は不可欠である。
     第4に、いわゆるグループ企業派遣が常用代替の温床となっていること、グループ内企業に対する派遣割合が8割を超える派遣元が5割程度も存在するという現状に鑑み、グループ企業派遣については、少なくとも5割以下に規制すべきである。
     第5に、派遣労働者と常用労働者の均等処遇原則を明記するなど、派遣労働者に対する差別禁止を強化すべきである。
     第6に、派遣労働者の劣悪な労働条件を改善するため、これまで何ら規制の無かった派遣元のマージン率について上限規制をすべきである。
     第7に、派遣労働者の労働条件低下、派遣労働者に対する権利侵害を招いた一因が、派遣先の責任が極めて不十分であることに存するのは明らかである。これを改善するため、上記雇用みなし規定の創設に加え、派遣労働者の賃金未払に関する派遣元と派遣先の共同責任化、派遣先による労働者派遣契約の途中解約の場合の派遣労働者への残存期間の賃金相当額支払義務、労災補償責任の共同責任化、派遣労働者についての団体交渉応諾義務の明記などを含む、派遣先責任の抜本的強化が図られるべきである。
     なお、期間を定めないで雇用される派遣労働者(但しいわゆる専門業務に限る)に対する労働契約申込み義務の解除については、常用代替を促進する恐れがあることから反対である。同じく、期間を定めないで雇用される派遣労働者に対する特定行為(事前面接等)の解禁も、業務の労働力を派遣するという派遣法の枠組みに反するものであり、かつ派遣労働者に対する不合理な差別や不要な個人情報の収集が横行している現状のもとではこれを認めるべきではない。
  4. 弁護団は、かかる不十分極まる派遣法改正案を直ちに撤回し、派遣労働者保護という目的に則って、上記の観点、内容に沿った、派遣労働者保護のため実効性ある改正案を改めて作成することを強く求める。

2008年11月15日

日本労働弁護団 第52回全国総会