金融危機に便乗した安易な雇い止め、解雇、内定取り消しや労働条件切り下げを許さない緊急アピール

2008/11/15

 

金融危機に便乗した安易な雇い止め、解雇、内定取り消しや労働条件切り下げを許さない緊急アピール

  1. アメリカに端を発した金融危機の影響による企業業績悪化を理由とした、期間労働者、派遣労働者をはじめとする大量の労働者の雇い止め、解雇、新卒採用の内定取消等が報じられている。景気後退、企業業績悪化が叫ばれるとき、それを口実とし、それに便乗した違法な解雇、退職強要、雇い止めや、労働条件の一方的な切り下げが行われることは、いわゆるバブル崩壊後のリストラ時にも経験したところであり、金融危機とそれに伴う景気後退が報じられている今、違法な解雇や雇い止め、退職強要、労働条件切り下げ、内定取り消し等が今後更にエスカレートすることが強く懸念される。
  2. とりわけ、今回大量雇い止めの対象とされている期間労働者、派遣労働者は、正社員の半分以下ともいわれている低賃金で働いてきた労働者が多く、十分な蓄えを持っているものは少ない。また、期間労働者、派遣労働者の中には、雇用保険に未加入の者も少なくないばかりか、加入していても加入期間が短く、雇用保険の給付日数が短い者も多い。さらに、派遣労働者の中には派遣元の用意した寮に住みながら働いてきた者も多くいるのであって、それらの労働者にとっては、雇い止めは、賃金ばかりか、住むところも奪われることを意味し、生活を根本から破壊されることになるのである。しかも、景気悪化の中で再就職の道も険しく、例えばトヨタ九州が6月と8月に雇い止めをした派遣労働者790人のうち6割以上が10月時点で再就職できていないという状況にある。
  3. 減益を口実にした人員削減は、契約労働者、派遣労働者にとどまらない。正社員に対しても、中高年の管理職300人の削減が報じられた沖電気をはじめ、人員削減・退職勧奨、解雇の動きが加速している。内定取り消しもこの秋以降増加している。
  4. しかし、例えば2009年3月末までに8000人近くもの契約社員・派遣社員の雇い止めを実行・予定しているトヨタ自動車及びそのグループ企業は、減益とはいえ、なお6000億円もの利益を見込んでおり、その他の企業も、大企業を中心に、利益を上げているにもかかわらず、その見込み額が減少したというだけで雇い止め、人員削減を強行・予定しているところが少なくない。さらに、これまでの「好景気」によって蓄積された内部留保は、資本金10億円以上の大企業だけで、この5年に限っても230兆円にも上っている。これらの利益、内部留保は、まさに、低賃金であるにもかかわらず正社員と同様に働いてきた期間労働者、派遣労働者の貢献なくしてあり得なかったのである。
     それにもかかわらず、利益の見込みが減少したということで、なんら雇用確保の努力を行うことなく大量の雇い止め・人員削減を強行することは、企業の社会的責任を頭から放棄するものであると言わざるを得ない。
  5. そもそも解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用として無効である(労働契約法16条)。中でも、労働者に特段非違行為がなく、経営側の事情等によりなされる整理解雇は、①人員削減の必要性があること、②解雇回避の努力がなされたこと、③解雇対象者選定が合理的であること、④事前に十分な説明・協議がなされたことという、いわゆる整理解雇の4要件を充足しない限り許されない。解雇に対するこのような規制が法定され、あるいは判例法理として確立してきたのは、企業にはそこで働く労働者の雇用を最大限保証しなければならないという責務があるからである。従って、例え業績悪化が事実だとしても、それだけで直ちに解雇が許されるものでないことは明白である。また、今回の大量雇い止めは、雇い止め、あるいは労働者派遣契約の終了という形式を取ってはいるものの、その実質は整理解雇と同様、経営事情により生じた人員削減にほかならず、雇い止めをされる期間労働者、派遣労働者にとっての不利益は、解雇の場合と何ら異なることはない。そのことと、企業にはそこで働く労働者の生活を守らなければならないという責務があることからすれば、今回の雇い止めが上記法理に反する違法・不当なものであることは明らかである。
  6. 報じられている採用内定取消も、企業が思いのままに行えるものではない。採用内定により、既に労働契約は成立しており、就労の始期が学校卒業直後とされているに過ぎない。そして、内定を得た時点で、当該の学生・生徒は、通常、他企業からの内定を辞退しているのであるから、内定取消によって被る被害は甚大である。企業による一方的な内定取消も、法的には解雇に他ならず、抽象的な業績悪化あるいはその恐れというような安易な理由でなされた内定取消は違法である。
  7. 業績悪化を口実とする労働条件の一方的な不利益変更も、労働契約法が、労働者と使用者の対等の立場における合意に基づいて労働契約が締結され、変更されるべきものであると定めている以上許されない。労働者の同意なき就業規則変更による労働条件切り下げも、労働契約法10条の要件を完全に満たさない限り許されない(労働契約法9条)。
  8. 企業は、雇用した労働者に対して、あるいはそこで働いている労働者に対して、その雇用を保証し、その生活を守るために最大限の努力を払う義務・責務を負う。それは労働者の労働によって利益を得ている企業が負っている根本的な義務・責務である。労働者の生活が、景気悪化や業績悪化を口実とし、あるいはそれに便乗した安易な雇い止め、解雇や採用内定取消、労働条件の切り下げによって破壊されることは許されない。
     我々弁護団は、大企業を中心とした安易な雇い止め、解雇、内定取消、労働条件切り下げなどに強く反対し、企業に対し、雇用確保のために最大限の努力を尽くすことを求めるとともに、国に対しても、解雇・雇い止め規制の強化、労働者保護の観点からの雇用対策法の抜本的強化、解雇・雇い止めをされた労働者に対する再就職支援と生活支援の強化等の対策を早急に講じることを求める。

2008年11月15日

日本労働弁護団 第52回全国総会