期待に沿う労働審判制度を実現するためのアピール

2004/11/6

期待に沿う労働審判制度を実現するためのアピール

1 本年通常国会において労働審判法が成立し、2006年度から全国の地方裁判所本庁で労働審判制度が開始される。
 労働審判制度は、労働契約上の個別紛争を簡易・迅速・安価に解決し、もって、日本の労働社会の「法化」に資するべく構想された制度である。
 個別的労働争訟事件は増加の一途であるが、まだまだ法的解決を受けえない労働者の方が圧倒的多数である。例えば、都道府県の労働局への相談のうち、あっせん又は助言・指導というそれなりの解決手続まで進むケースは約7%にすぎず(03年度)、あっせん事件の半数は使用者があっせんに応じない為不開始で終了している。かかる状況を抜本的に改善し、紛争をかかえた労働者がこぞってこの制度を利用できる状況を作ることが法律家、労働組合・労働運動家、そして関係行政機関等の重要な責務である。


 まず何よりも我々労働弁護士は、各県において、あらゆる機会をとらえて労働審判制度の意義と内容について、広く啓蒙・宣伝を行なう。そのためにも、様々な相談機関(労基署・労働局、自治体・司法支援センター・労働組合など)と協力・連携して労働相談体制を充実させ、労働審判制度スタート時点で代理人就任要請に充分応えうる体制を整備する。
 また、いわば素人裁判官である労働審判員が職業裁判官(労働審判官)と自己の経験と見識に基いて十分に自信を持って議論ができるように、労働審判員の研修に全面的に協力する。


 労働審判制度が3回以内の期日で紛争を解決しうるためには、適切な準備のうえで申立てがなされる必要があり、申立代理人としてこの点に習熟しなければならないが、最も重要な点は第1回期日の充実である。
 この点は相手方又はその代理人の誠実さが強く求められるところであるが、法律家全体の責務であり、我々は、弁護士会と協力するなどして使用者代理人の意識改革に務めるとともに、労働審判官が適切な指揮・運用をなすよう裁判所とも協議の場を持ち、期待をそぐわない制度運用がされるよう務める。


 すべての労働者、労働組合、労働相談機関とその関係者の皆さんにおかれては、労働審判制度が、個別労働紛争の法的解決にとって、有用な制度であることを十分に理解いただき、この制度を積極的に利用されんことを訴える。労働社会から労働者の泣き寝入りをなくし、適切な法的解決を図ることによって、労働者個人の人格と権利が十分に保護・実現される社会とするために、共に闘いたい。


 政府においては、労働審判制度の啓蒙に務めるはもちろん、役に立ち期待に応えうる制度運用がなされるよう十分なサポートを行うと共に、労働審判の解決指針となる、簡明で労働者の権利を宣言する労働契約法を早急に制定することを求める。


 紛争を抱えた労働者が、心置きなく法的解決を図りうる制度の実現・運用に向けて全ての法律家、関係行政機関、労働組合が速やかに準備に入られるよう、強く訴えるものである。

2004年11月6日

第48
回日本労働弁護団総会