(意見書)次世代育成支援対策推進法における「行動計画策定指針(案)」に対する意見

2003/9/1

次世代育成支援対策推進法における「行動計画策定指針(案)」に対する意見

                       2003年8月7日       

                         日本労働弁護団      

                         幹事長  鴨田哲郎   

 標記については、既に5月19日付にて意見を公表したところであるが、意見募集にあたり、改めて、一般事業主行動計画(五、六項)を念頭に意見を述べる。

第1.
基本的視点
1 「子育て優先」を強調すべきである。
 まず何よりも「指針(案)」(以下、「案」という)においては、「職場優先の意識」(六1(2)オ)、即ち、企業(仕事)第1の考え方を払拭しようとする意図が極めて希薄である。
 育児休業法制化後も、日本の企業は、従業員の時間を24時間、1年365日、業務命令によって支配できるとの基本的考え方を変更しておらず、かえって、折からのバブル崩壊、競争激化の中で、家庭事情等で企業に「貢献」できない従業員は排出する方向を強めている。日本の企業は相も変わらず、企業の意向に100%応えるのは当たり前で、120%応えて初めてプラス評価となるのである。
このような仕事や評価についての考え方を根本的に改めない限り、例えば、男性の育休取得者(短時間勤務等を含む)が増えるはずがない。
 また、企業を説得するためとはいえ、子育て支援はこれを必要とする家族のためものであって、企業のためのもの(五1(4))では断じてない。家族で触れ合いながらの子育ては人間として当然かつ最も自然な欲求であり、企業がこれを妨げることこそ規制されなければならない。
「仕事と子育ての両立」という緩い発想ではなく、ことに支援対象を小学校就学時までに限るとすればなおさら、「子育て優先」の意識を強調すべきである。同時に、当然のことながら、子育て労働者に対する差別・不利益取扱いを厳禁すべきである。

2 全般的な時短が大前提
 丁度子育て期にある30代労働者において、週60時間を超えて労働する者の割合が急激に増えていると報告されており、20代、30代での過労死・過労自殺の増加やその寸前と思われる状況についての家族の悲痛な声が新聞投書欄に散見される。今、日本の職場では年間3000時間働くことが当たり前とされつつある。
 極く普通の労働者の労働時間水準を大幅に引下げなければ、子育て労働者の「貢献」度格差は拡がる一方であり、子育て時間を確保したくても、とても取れない状況は全く改善されない。
 子育て労働者が心おきなく子育て時間を確保しうるためには社会全体の労働時間が大幅に短縮されねばなれず、労働時間法の厳格な適用と監督、36協定事項や基準時間の強化、年休取得の推進等、法改正せずとも相当な効果が期待できる取組み課題がまず、実施されねばならない。
「案」はこの点においても、問題意識が希薄である。

3 育休法の範囲内では実効性がない
 (1) 勤務制度

 子育て労働者が安心して働けるためには、子の状況に対応できる制度が確立していなければならず、その必要の程度、内容は家庭事情によって多様であり、しかもかかる状況は突発的に生じることが多い。
 「案」は育休法をなぞるだけであるが、育休法(以下、法という)の短時間勤務等の制度は極めて不十分である。
 まず何よりも4種の制度のいずれか1つを実施すれば法はクリアしたこととなるが、前記の多様性に全く対応できていない。
 さらに、4種の内容も決して子育てを十分に支援するものとは言い難い。

 第1に、所定外労働をさせない制度は、そもそも所定外労働が臨時的・例外的であるべきことからすれば、子育て労働者に限らず、全ての労働者に求められるものであって、これを支援策の1つと挙げること自体が、法と「案」の意識の低さを如実に示すものである。本制度は全ての子育て労働者に適用されるべきであり、子育て労働者の所定外・休日労働には労働者の個別具体的かつ積極的な同意を要するものとし、制限時間(法17条1項)もゼロに限りなく近づけるべきである。
 第2に、フレックスタイム制及び始終業時刻の繰上げ・繰下げは、何ら所定労働時間を短縮するものではなく、子育てのために欠務した時間は別途埋め合わせをしなければならないのであって、実効性は不十分である。
 第3に、短時間勤務制こそがまず基本とされるべきものであるが、労働者の請求権あるいは形成権が保障されていない。例えば、少なくとも所定労働時間の三分の二以内については労働者に勤務時間短縮の一方的形成権を与える等の制度を具体化すべきであり、これに対する使用者の拒否権を認めるべきではない。
 第4に、年次有給休暇とは別に、使用単位として、半日、1時間を含む親休暇制度を法制化すべきである。その日数は子の年齢に応じて定められるべきである。サービス経済化は、自身の休日と子の休日(非登校・登園日)が一致しない労働者を増大させているのであって、この点に十分配慮が必要である。
 第5に、免除請求権(所定外労働と深夜労働)に対する使用者の拒否権は廃止又は当面停止すべきである。年休と異なり、企業にとって予測可能であって十分に対応できるからである。

 (2) 対象労働者

 子育てが人間として当然の欲求、権利である以上、勤務形態によって差別しうる合理性はなく、現行法で対象とされていない有期雇用労働者も支援対象とすべきであり、ことに、有期契約の延長を踏まえ、法自体も改正すべきである。

 (3) 対象となる子

 「案」は対象を小学校就学前の子に限定するが、これでは狭きに失する。例えば、小学1年生の給食開始は通常5月連休明けであり、それまでの1ヶ月は昼食の準備が必要である。小学校低学年は体調を崩すことが多い。このような状況に柔軟に対応できるよう、支援策の枠組みは十分に広く設計すべきである。

4 企業規模に応じた適確な配慮
 日本企業は戦後50年以上、労働者の家庭を顧みず、労働者の生活を企業に従属させてきたのであって、これからは、企業の応分な負担で子育て労働者を支援すべきである。相応の規模(計画策定義務ある300人超企業程度)以上の企業に対しては応分の負担を強制すべきであり、安易な行政依存の要求(日本経団連報告書など)を容認すべきではない。
 他方、零細企業については、当面、負担能力に応じた配慮が必要であろう。企業規模による支援策の格差は、国家あるいは行政が補うべきである。

第2 いくつかの問題点

1 社内委員会(五.4.(1))

  委員会等の開催は、所定時間内に行われなければならない。

2 休業後の復帰(六.1.(1).オ(エ))

 育児休業取得後の職場復帰は原職が原則であることを強調すべきである。派遣法改正等により代替要員確保策は整備されてきているのであるから、安易に原職「相当職」を容認すべきではない。

3 勤務地等限定制度(六.1.(1).コ)

 一般的な処遇コースの区分として設けるべきではなく、子育て期に限定した、労働者本人の希望に基づくものとすべきである。本来、子育てに対する企業の責任と配慮の意識が十分に浸透すれば、あえて制度など設計せずとも、人事の運用で十分に対応しうるはずのことである。当面、法26条を強化・強調すべきである。

4 テレワーク(六.1.(2).エ)

 かかる労働形態が、実質的には請負と化してしまい、現実にも労働時間規制の実効を期しえないことは見易い道理であって、安易な推奨をすべきではない。適切な就業条件確保策の実施がなされて初めて検討されるべきことである(当面、設置が予定されていると伝えられる研究会の報告を待つべきである)。

5 地域貢献活動(六.2(2))

 企業が取組む活動に親たる労働者が動員されることは十分に想定されるところであって、当該労働者は自分の子との接触時間を削らされて、企業の為に活動させられる危険がある。かかる事態が生じないよう、十分な規制、配慮が必要である。

以 上