安倍政権のもとでの憲法改悪に反対する意見書
2018/11/22
安倍政権のもとでの憲法改悪に反対する意見書
2018年11月17日
日本労働弁護団
会長 徳住堅治
意見の趣旨
日本労働弁護団は、自衛隊員及び様々な職場の労働者を危険にさらし、労働者の権利侵害が生ずるおそれを飛躍的に増大させる、安倍政権による憲法改悪に断固反対する。
理 由
第1 自民党憲法改正推進本部の改憲案
自民党憲法改正推進本部は、2018年3月、改憲4項目について「条文イメージ(たたき台素案)」を発表した。憲法改正案を臨時国会に提出すると総裁選で公約し三選された安倍総理大臣は、9月20日、「総裁選で結論が出た以上は一致結束して進んでいくのが自民党の伝統だ」と語り、その後も様々な機会で憲法改正を強力に進める意思を明らかにしている。
自民党の発表した「条文イメージ」では、憲法9条については、以下の条文を憲法に加えるものとしている。
【第9条の2】
(第1項)前条の規定は、日本の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
また、いわゆる「緊急事態条項」を創設するとして、以下の条文を憲法に加えるものとしている。
【第64条の2】
大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
【第73条の2】
(第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
(第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
第2 安倍政権のもとでの憲法改悪に反対する
日本労働弁護団は、憲法で保障された労働者と労働組合の権利を擁護する目的で結成された団体として、労働者と労働組合の権利を脅かすことにつながる安倍政権のもとでの改憲に断固反対する。
以下、今回の改憲案につながる安保関連法に対する労働弁護団の取り組みを紹介した上で、その理由を述べる。
1 安保関連法に対する労働弁護団の取り組み
⑴ 「安全保障法案」の廃案を求める緊急アピール
日本労働弁護団は、2015年7月17日「自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール」を発表した。
安保関連法に反対した理由は、①安保関連法は憲法9条を逸脱する違憲立法であり、それに従うことは自衛官の憲法尊重擁護義務(99条)に反すること、②集団的自衛権行使は従来の政府見解に基づいた自衛官の同意の範囲を逸脱するものであること、③集団的自衛権の行使のために出動を命じた自衛官に対していかなる措置により安全配慮義務を尽くすのか検討されていないこと、という点である。
⑵ 緊急電話相談会の実施
また、2015年9月12日及び15日には、自衛隊員・家族のための安保法施行・緊急電話相談会を実施した(自衛官の人権弁護団・北海道と共催、改憲問題対策法律家6団体連絡会の協力)。
全国から合計14件の相談があり、いずれも家族から、夫や息子、恋人が海外で殺し殺される危険にさらされることへ不安を訴えるものであった。
⑶ 自衛隊員への呼びかけ「君死にたまふことなかれ」
安保関連法が強行採決された2015年9月19日には、声明「自衛隊員の皆さんへ呼び掛けます『君死にたまふことなかれ』」を発表し、自衛隊員に対し、①「新たな法律により追加された外国のための防衛出動命令」が発せられたときにはこの命令に服従するとの同意書や誓約書等の提出を求められてもこれを提出しないこと、②「新たな法律により追加された外国のための防衛出動命令」が発せられても、これには従わないことを呼びかけた。
2 改憲案は、安保関連法を合憲とするものである
⑴ 従前の政府見解
2014年7月1日以前の日本政府の集団的自衛権に関する見解は、①日本に対する急迫不正の侵害があること、②これを排除するために他の適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきことの三要件を満たした場合にのみ自衛の措置が認められるのであって、いわゆる集団的自衛権(自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃をされていないにもかかわらず、実力をもって阻止すること)の行使は、この三要件とくに①の要件を満たさず、憲法上許されないというものであった(1972年10月14日政府見解)。
⑵ 2014年7月1日の閣議決定及び安保関連法の制定
この政府見解を転換し、一定の場合に集団的自衛権の行使も憲法上認められるとの解釈変更をしたのが安倍政権である。すなわち、2014年7月1日閣議決定は、「安全保障環境の変化」を根拠として、「他国に対して発生する武力攻撃であったとしても…日本の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」と指摘した上、武力行使を認める要件として①密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、②国民を守るために他に適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使であること、という新三要件を定立した。この新三要件は、他国への武力攻撃への反撃を認めるという点でまさに集団的自衛権の行使を容認するものであって、1972年見解を180度転換したものに他ならない。
かかる解釈変更に基づき、その他の自衛隊の危険な活動をも拡大して制定されたのが安保関連法である。このような集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定及びそれに基づく安保関連法は違憲であるというのが憲法学者や弁護士など法律家の圧倒的多数の見解であり、日本労働弁護団も当然その立場に立つものである。
⑶ 安保関連法を合憲とするための改憲
安保関連法という違憲立法が成立・施行され、立憲主義の観点から法的不安定な状況が現実に存在するもとで、安倍政権が目指す9条改正は、その条文案からすれば単に「自衛隊を書き込むだけ」などというものではない。
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