労働時間の規制を緩和する「裁量労働制拡大」だけではなく「高プロ」も撤回することを求める

2018/3/6

〈緊急声明〉

労働時間の規制を緩和する「裁量労働制拡大」だけではなく
「高プロ」も撤回することを求める

2018年3月5日
日本労働弁護団
幹事長 棗 一郎

 安倍首相は3月1日、働き方改革関連法案から裁量労働制の対象拡大を削除することを正式に表明し、今国会での提出は断念した。新たな実態調査を行った上で労働政策審議会での審議をやり直し、来年以降に再提出するとしている。政府が裁量労働制を拡大する根拠としてきた厚生労働省のデータの不備が相次いで見つかり、根拠データの基となった調査結果に問題があったため、遂に法案からの削除に追い込まれた。
今国会において、安倍首相は「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁し、あたかも裁量労働制で働く労働者の方が一般の労働者よりも労働時間が短いかのような主張を繰り返した。
 しかし、これは国民に大きな誤解を与えるものであり、首相答弁の出所である「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」からは、そのような結果を導くことはできないことが、研究者の検証等で明らかとなり、野党の追及を受けて首相は答弁の撤回に追い込まれた。厚生労働省は、裁量労働制で働く労働者の労働時間が一般の労働者よりも短いというデータは存在しないことを認め、加藤勝信厚生労働大臣は、「比較は不適切だった。深くお詫び申し上げる。」と陳謝した。
 このように政府が根拠データの誤りを認めるのであれば、もはや再調査したうえで提出しなおすということではなく、働き方改革関連法案から完全に削除して裁量労働制の対象業務の拡大を断念すべきである。日本労働弁護団をはじめ労働側は、裁量労働制は「みなし労働時間制」であり、労働時間の把握と記録をしないがゆえに、長時間労働に対する歯止めがなく、「定額(賃金)で働かせ放題」となると厳しく批判してきた。2014年のJILPTの調査でも、裁量労働制の労働者は一般の労働者よりも長時間労働の割合が高いという結果になっている。このように裁量労働制の本質は、長時間労働を助長し、労働者の命と健康を犠牲にしかねない危険なものである。
 さらに、今回の働き方改革関連法案で新たに導入するとしている高度プロフェッショナル制度も、裁量労働制より以上に労働時間規制を緩和するものであり、長時間労働を助長する危険は高い。政府は、「高プロ」のことを「働いた時間ではなく成果で評価する制度へ働き方を変える改正」だと説明しているが、全くの誤りである。「高プロ」の本質は対象労働者に労基法の労働時間規制を適用しない(適用除外・エグゼンプション)という危険極まりないものであり、際限のない長時間労働を助長しかねないものである。同制度が「過労死促進法」「残業代ゼロ法案」と批判されるゆえんである。また、法案要綱のどこにも成果主義賃金制度を義務付けるなどということは定められていない。政府は、国民を誤解させるような誤った宣伝を直ちに止めるべきである。
 これら2つの制度の本質は労働時間規制の緩和であり、一方で政府が同じ法案で目指している労働時間の上限規制による長時間労働の是正とは矛盾するものである。政府は、裁量労働制の対象業務拡大と高度プロフェッショナル制度の導入を直ちに完全に断念すべきである。

以上