不適切なテレワークガイドライン案の修正を求める幹事長声明

2021/3/12

不適切なテレワークガイドライン案の修正を求める幹事長声明

2021年3月12日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹

 テレワークの導入・実施が急速に拡大していることを受けて、日本労働弁護団は、2020年12月22日付で「テレワーク従事者に対する労働時間把握方法等に関する緊急幹事長声明」、2021年2月17日付で「労働者のためのテレワーク実現に向けた意見書」を公表し、使用者が労働者に不利益な条件で一方的にテレワークを導入することのないよう警告してきた。
 そのような中で、厚生労働省は、2021年3月4日の労働政策審議会雇用環境・均等部会において、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(案)」(以下「ガイドライン案」という)を報告した。しかし、このガイドライン案には以下のとおり多くの問題点があるため、修正を求める。

① 労働者の明確な個別同意を要件とすべき

 ガイドライン案は、勤務場所を在宅とするテレワークについて、労働者の合意を得なくとも、就業規則の変更及び周知によって使用者が一方的に命じることができるとする(ガイドライン案5(4))。

 しかし、テレワークは、私的空間である自宅を就労場所として提供することを求めるものであるから就業規則でその処分を基礎づけることはできないし、就労が私生活の場で行われることで、プライバシーの侵害や、もともと家事労働を多く負担している女性労働者の更なる家事負担増加によるジェンダーの固定化などの問題も指摘されている。よって、自宅を就労場所とするテレワークについては、労働者の明確な個別同意を要件とすべきである。

② テレワークに要する費用負担は使用者とすべき

 ガイドライン案では、テレワークに要する費用負担の取扱いについて、労使で話し合い、就業規則等において規定しておくことが望ましいと述べるに留まり、在宅勤務により増加した労働者の自宅の通信費や電気料金等についても「合理的・客観的に計算し、支給することも考えられる」と指摘するのみである(ガイドライン案4(2))。すなわち、労働者にすべての費用を負担させることも可能ということになる。

 しかし、自宅にテレワークを行うパソコンなどの設備やWi-Fi環境のない労働者でも、使用者からテレワークを命じられた場合に、その設備準備に係る費用や通信費などをすべて労働者負担とすることも許容されることになってしまう。これら費用は、もともと労働者が負担することが想定されていなかった費用であり、使用者が負担すべきものであることを明記すべきである。

③ 労働時間規制を緩和すべきではない

 ガイドライン案は、事業場外みなし労働時間制について、テレワークで一定程度自由な働き方をする労働者にとって、柔軟にテレワークを行うことが可能となる制度であり活用できるとする。そして、その要件として、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、かつ、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと、を挙げる(ガイドライン案6(2)ウ)。

 しかし、そもそも労基法38条の2にいう「労働時間を算定し難いとき」 とは、あくまでも労働時間の算定が客観的な困難な事業場外労働について例外的にその算定の便宜をはかったものにすぎない。よって、ガイドライン案が想定するような、労働者が自分の意思で回線を切断できるとか、携帯電話の折り返しのタイミングを労働者が判断できるなど、客観的には労働時間の把握・算定が可能であるにもかかわらず使用者が随時具体的な指示に基づいて業務をさせていないだけである場合については、「労働時間を算定し難いとき」にはあたらない。

 テレワーク・在宅勤務においては、その殆どがネットワークに繋がっているパソコンにおいて就労させており、「労働時間を算定し難いとき」にあたることは想定できないから、事業場外みなし労働時間制の適用を認めるべきではない。

④ 使用者の労働時間把握義務を緩和すべきではない

 ガイドライン案は、テレワークにおける労働時間の把握について、客観的な記録による把握が原則としつつも、労働者の自己申告による把握もあり得るとする。そして、「自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識していない場合には、申告された労働時間に基づき時間外労働時間の上限規制を遵守し、かつ、同労働時間を基に賃金の支払い等を行っていれば足りる」として使用者の責任を免責している(ガイドライン案7(2))。

 しかし、テレワーク・在宅勤務においては、時間外労働を労働者が申告しづらく、長時間労働を誘発しやすいのであるから、使用者による労働時間把握の重要性を軽視すべきではない。テレワークはほとんどがパソコン等のモバイル端末を利用して行われているのであるから、パソコンのログ、メールの送信時刻、文書作成時刻等の作業時刻の記録等から実際の労働時間との乖離を認識することに技術的な困難が少ないことを前提に、使用者が適切に労働時間を管理する責任を負うことを強調すべきであって、安易に使用者の責任を免責させるべきではない。

 テレワークは、私生活の場を勤務場所とする特質上、労働者のプライバシー侵害、長時間労働、費用負担増大等の支障が生ずるおそれがあるものである。であるからこそ、その推進を図るためのガイドラインは、使用者に対する厳正な規制を定めるものでなければならない。日本労働弁護団は、労働者のための適正なテレワークガイドラインの策定を求める。