妊娠中の労働者を新型コロナウイルス感染症の感染から護ることを求める幹事長声明

2020/5/15

妊娠中の労働者を新型コロナウイルス感染症の感染から護ることを求める幹事長声明

 

2020年5月15日

日本労働弁護団

幹事長 水野英樹

 

新型コロナウイルスの感染が全国で拡大する中、妊娠中の労働者も感染リスクにさらされている。

現在、妊娠による新型コロナウイルス罹患率の上昇や重症化について明らかな知見はないとされているものの、一般的に妊婦が肺炎に罹患すると重症化しやすいと指摘され、レントゲンやCT撮影、有効だと指摘される投薬治療が困難などの問題がある。また、新型コロナウイルスに罹患した妊婦の検診、出産を受け入れる医療機関が限られ、妊娠後期に罹患した場合は帝王切開になりやすいこと、日本産婦人科学会が帰省分娩を止め居住地での出産を考慮するよう提案していること等により、出産をめぐる状況が平時と比べ高いリスクとなっていることは明らかである。

こういった状況を踏まえれば、あらゆる事業主は、妊娠中の労働者に対して、他の労働者以上に、一層労働者の就労環境に配慮する義務がある(労働契約法5条)

この点、既に厚生労働省は、経済団体に向けて、妊娠中の労働者が休みやすい環境整備、感染リスクを減らす観点からのテレワークや時差出勤の積極的な活用促進を要請している(令和2年4月1日付厚生労働省健康局長等「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた妊娠中の女性労働者等への配慮について」)。

さらに、2020年5月7日からは、事業主に対して妊娠中の労働者から保健指導又は健康診査に基づき指導を受けた旨の申出があった場合、当該指導に基づき、出勤の制限等の必要な措置を講ずる必要があるとしている(男女雇用機会均等法13条2項、「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」2⑷を追加し実施)。

かかる政府の対応は評価できるものの、現状の対応はまだ不十分である。多くの妊娠中の労働者が、事後の不利益取り扱い、休業により人員配置などの面で職場へ負担をかけること、社会的要請の強い職業上の責任感などから、現在も上記の申し出がしにくい状況が続いている。

こういった状況を踏まえれば、厚生労働省は、労働者から事業主への申し出がなくとも、事業主側から積極的に妊娠した労働者に対して上記措置を講じるよう、要請を出すべきである。

また、妊娠中の労働者の中には、休業したくても収入が途絶えるという経済面での不安から休業できない人もいるし、事業主において休業中の賃金等の補償をしたくとも経営状況からこれが難しい場合もある。したがって、妊婦を休業させ休業手当等を支給した事業主に対しては、政府が新たに何らかの助成金制度を創設して、迅速且つ実効的に、適切な補償を行うべきである。

日本労働弁護団は、新型コロナウイルスの感染が拡大する状況においても、日本で働く全ての妊娠中の労働者やその家族が、安全・安心に新しい生命の誕生を迎えられるよう、政府や事業主等に対して、万全の体制をとることを求めていく。