均等法

2005/10/2

1 均等法等改正にむけての進捗状況

 2006年通常国会への均等法改正法案の上程へむけて、厚労省は、労働政策審議会雇用均等分科会において改正内容の検討を急ピッチで進めている。

 この間、厚労省は、昨年(04年版)の権利白書で報告したとおり、03年に学識経験者からなる男女雇用均等政策研究会を発足させ、同研究会は、04年6月22日、後記4項目の検討点について、外国法制の分析、我が国での導入を検討する際の留意点等々についての報告を発表した。これを踏まえ、04年9月より公労使三者構成による労働政策審議会雇用均等分科会が開催され、同分科会(現座長、横溝正子弁護士)において、前記研究会報告を素材の一つ(実質的には改正枠組みの叩き台)とし均等法改正にむけた議論を行われている。

 同分科会では、05年7月までに後記各検討項目についての2周目の議論が終わり、7月27日に審議状況の中間とりまとめが発表された。そして、8月に一般からの意見募集が行なわれ、9月15日より改正法案の具体的内容決定にむけて詰めの議論が始まっている。今後、月2~3回のペースで開催され、05年末頃には最終分科会報告をまとめ、06年初めに改正法案作成、06年通常国会への改正法案上程へと進むことが予定されている。

2 労政審分科会での争点等

(1)法改正検討項目

 厚労省事務局が均等政策研究会に提起した検討項目は、「男女双方に対する差別の禁止」「妊娠・出産等を理由とした不利益取扱い」「間接差別の禁止」「ポジティブ・アクションの効果的推進方法(※法改正は検討対象とはなっていない。)」の4点であった。

 分科会ではこれらに加え、労働者側から、均等法の目的・理念に「仕事と生活の調和」文言を加えること、包括的な差別禁止規定化、均等指針の「雇用管理区分」廃止、セクシュアル・ハラスメントの禁止規定化、均等法の実効性確保等、使用者側から女性保護の見直し等が検討項目に追加されている。

(2)「仕事と生活の調和」

 均等法の理念・目的が、女性を男性なみにすることではなく、男女がともに仕事と生活を調和させた働き方ができることにある旨を示す趣旨である。しかし、使用者側は「働き方は個人の自由選択の問題」等として反対しており、公益委員は意見が分かれ、法律関係の学者・弁護士委員が「仕事と家庭の調和は賛成だが、別な法律の分野」「法体系を混乱させる」など同文言の挿入に反対している。

 理念・目的で上記文言を入れることにより、均等法の個別規定の解釈基準となり合理性判断などで重要な考慮要素となるものであり、法体系を混乱させるものでもない。今後の議論の展開に注目したい。

(3)男女双方に対する差別の禁止

 現行の女性差別のみの禁止から男女双方に対する差別禁止へと改正することは、公労使三者に意見の不一致はない。残された争点は、男性差別是正のためのポジティブ・アクションも認めるかである。分科会の主流は、女性差別の歴史と現状を踏まえ、当面は、女性差別是正措置のみを認める現行均等法第9条を維持する方向である。

(4)妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いの禁止

 妊娠・出産を理由とする「解雇」禁止規定しかない現行法(8条2、3項)を、それ以外の不利益取り扱いも禁止するよう改正するという大きな方向は一致しており、また、妊娠・出産それ自体のみを理由に取り扱いに差をつけること、例えば妊娠と告げただけで降格する等を禁止すべきことは、公労使三者ともほぼ意見の不一致はない。

 問題は、「妊娠・出産に起因して不就労・能力低下が生じた場合」の処遇についてである。現行の労基法や均等法では、産前産後休暇や健康管理措置など「休業」の権利は保障されているが、休業や能力低下が生じた場合に、昇進・昇格・賃金等の処遇はどうあるべきかは規定されていない。昇進・昇格・賃金等でも不就労・能力低下がなかったものと全く同様に扱うのか、処遇差が許されるのかが議論になっている。均等政策研究会では、妊娠・出産を保護する基本的立場からアメリカ型(他の疾病と同等に扱えばよい)ではなくヨーロッパ型(保護の視点を加え他の疾病時より厚い保障)を志向すべきとの意見が大勢であったが、どのような種類の処遇について、どの程度の保護をするか等の具体的な内容までは詰められなかった。

 分科会では、労働側は、妊娠・出産による不就労・能力低下は相当程度不可避であり、賃金については比例的考え方をとるとしても、それ以外の処遇では不就労・能力低下はなかったものと扱うべきであると主張し、公益委員の一部からも「自分の力で左右できない事実で評価することは公正ではない」「能力低下の有無や程度の判断は困難」等、処遇差を認めるべきではない旨の意見が強く出されている。しかし、使用者側および公益委員の一部からの抵抗も強い。

(5)間接差別の禁止

 今回の改正で最も大きな問題であり、議論も紛糾している。

 使用者側は、「間接差別の概念(定義)が曖昧」と規定の導入自体に反対しているが、公益委員が「均等政策研究会報告で概念(定義)は整理されている、どんな事案が該当するかの適用レベルの問題」と整理し、定義問題は研究会報告で示されたものを前提とすることで集約しつつある。しかし、使用者側は、更に「何が間接差別か予見困難で現場が混乱する」「対象が無制限に広がりかねない」「ポジティブ・アクションを進めればよい問題」等と導入に強く反対しており、公益委員の一部からは、予見性を高める必要を強調し、差別となる対象を限定して均等法に規定するネガティブリスト方式の提案も出されている。 

 しかし、例えば、男女賃金差別が「男女別賃金→コース別賃金→成果主義賃金」と差別形態を変化させているように、差別形態は常に変化する。「差別は動く標的」(ILO『平等のとき』2000)である。間接差別禁止法理は、性中立的な基準が一方の性に不利益な効果を与えないかを、制度導入時そしてその後も継続的に検討していく責任を使用者に、負わせる点に重要な意味がある。法律で対象を固定・限定することは、差別の変化への対応を困難にし、また、諸外国にも例をみない。

 分科会の流れとしては、何らかの間接差別禁止規定は導入する方向へ動きつつある。しかし、使用者側の抵抗は大変に強く予断を許さない。また、規定内容如何では、規定はされても差別是正の実効性に乏しい内容のものになりかねない。今後、分科会では、具体的な条文案や指針案等を念頭に置きながら、差別的効果の判断基準、正当事由の内容(均等政策研究会報告は、正当事由の規定内容に曖昧さを残し、また、かなり広く使用者の経済的理由等による正当化を認めている)等、核心部分の議論に入る。これまで踏み込んだ法的議論があまり行なわれていない部分であり、労働者側を理論的にバックアップしていくことが重要となろう。

(6)差別禁止の内容等

 労働者側からは、イ.「募集採用」も機会の均等だけでなく差別禁止の規定とすべき、ロ. 現行のステージ毎の規制ではもれている差別(仕事の与え方等)をも取り込むべく、労働条件全般についての一般的な差別禁止規定を置くべき、ハ. 労基法3条に「性別」を追加、同4条に「同一価値労働同一報酬」を追加、ニ. 指針の「雇用管理区分」の廃止が主張されている。

 7月までの討議では、労働者側の主張に対し、使用者側が一般的反対意見を述べるにとどまり、公益委員からは殆ど意見が出されていない。実質的議論はこれからである。

(7)ポジティブ・アクション

 労働者側は、ポジティブ・アクションを義務づけること、具体的には行動計画策定の義務づけ等を主張しているが、使用者はポジティブ・アクションの重要性は肯定しつつ義務化には強く反対している。厚労省事務局は、均等政策研究会の段階から法改正を全く視野に入れず、行政指導強化レベルの問題として扱う姿勢を強く示している。

 単なる奨励策では差別是正が進まないことは明らかであり、行動計画の策定など最低限のレベルの義務づけを次世代育成支援法等を参考に盛り込むことが必要である。行動計画では「仕事と生活の両立策」も重要なポイントであり、職場全体の働き過ぎを是正する足がかりにもなろう。

(8)セクシュアル・ハラスメント

 均等政策研究会報告には含まれていない問題だが、各種機関への相談件数も多く、使用者委員の一部から規制強化の意見がでるなど使用者側・厚労省事務局とも関心は高い。

 労働者側からは具体的に、現行の配慮義務(21条)から適正予防・事後対応義務規定(調停・公表の対象)へ、ジェンダー・ハラスメント(性的役割分担意識に基づく差別)も禁止、救済申出に対する不利益取り扱い禁止・プライバシー保護が主張されている。使用者側は、具体的法改正内容の場面になると不明確になる等々反対の態度をとっている。法改正に入るか詰めはこれからである。

(9)実効性確保

 現行の雇用均等調停委員会は、殆ど機能していない。雇用均等室も、均等法違反が明々白々の場合に企業を指導する程度で、強制力はなく人員も不足しており、有効な役割は果たしていない。救済機関についての抜本的改正が望まれるが、実現可能性の壁は厚く、分科会での議論は殆ど進んでいない。現行制度についても、立証責任転換の規定問題、差別が無効とされたときの措置等、議論すべき課題は少なくない。しかし、分科会での議論は殆ど行われていない。

(10)坑内労働

 女性の坑内労働の禁止(労基法64条の2)が争点となっており、女性労働者側からも規制緩和要求がある。専門家会合が設置され規制見直しの報告(05年7月)が出された。男女共通規制を基本に保護規定を廃止するか、段階的対応を考えるか、ILOの45号(35年)鉱山労働条約(女性の鉱山労働禁止、日本も56年に批准)廃棄、ILOの176号(95年)新鉱山労働条約(日本未批准)との関係も含めて、分科会での議論はこれから開始される段階である。

3 改正の山場を迎えて

 ジェンダーバッシングなど逆流も強いが、国際的な批判のなかで、均等法の改正が避けては通れない課題となっている。分科での議論は、これから具体的な詰め段階に入り、終盤の山場を迎える。理論・運動両面での労働側の取り組みが重要となっている。労働者が現実に使える差別を是正できる法律を作り出すために、法律実務家集団としての力を是非発揮していきたい。

 職場では、人員削減・非正規化・「能力主義」化・人事制度の複雑化が進み、「男女差別どころではない」「差別が見えない」状況が生まれ、均等法改正が「時代遅れ」・「他人事」化しがちである。しかし、「均等」問題は一部女性労働者の問題ではない。非正規化と無限定な競争が強いられる中、「間接差別の禁止」は「パート(非正規)差別是正」に直結する問題であり、また、平等の実現は「男性の働き方の見直し」を迫るものである。審議会及び国会での法改正への取り組みと職場の現実の課題への取り組みを連携させながら、改正へのうねりを高めていくことが求められている。

 各労働団体、女性団体、弁護士会の取り組みも、各地でようやく具体的動きが見え始めた。審議会対策、国会対策も含め、正念場の一年を迎える。

(担当 黒岩容子)

以 上