司法改革をめぐる状況

2004/10/1

本04年通常国会において司法改革に係わる諸法が成立した。労働裁判改革に係わる労働審判制度の導入については本章第1を参照していただき、本項では、労働問題や労働事件に係わると思われる範囲でその余の司法改革の状況にふれておく。なお、行政事件訴訟法も改正されたが、残念ながら公務員労働者の労働条件等に係わる訴訟に関する改正はないので省略する。

1総合法律支援法による日本司法支援センター

総合法律支援法に基づき、06年度に日本司法支援センターが設立される。同センターの枠組み、法務省との関係、弁護士自治との関係等については議論のあるところであるが、労働審判制度の全国的活用と適切な運用という視点からは、同センターがどれだけ全国各地の労働者の相談に関与できるかが極めて重要と思われ、合わせてセンター契約弁護士に労働問題と労働審判制の理解を向上させてもらわなければならない。

弁護士会等や行政による労働相談が充実しつつある大都市圏を除くと、労働者が労働問題を抱えたときにまず相談に行く、あるいは思い浮かぶのは労基署である。01年成立の個別労働紛争解決促進法に基づき労働紛争について(1)紛争調整委員会によるあっせん、(2)労働局長による助言・指導が行われている。厚労省の統計によれば、02年度の民事紛争相談件数は約10万3000件であるが、この内あっせん受理件数は約3,000件、助言・指導申出受付件数は約2,300件に過ぎず、両者合わせても紛争事件の約5%しか解決手続が採られておらず、03年度についても同様である(相談件数約14万1000件、あっせん約5,300件、助言・指導約4,400件、合わせて約6.9%)。しかも、あっせんの略半数は相手方(使用者)があっせん手続に応じず終了している。

このように、労基署あるいは紛争解決促進法は現在決して有効な解決システムとはなっておらず、圧倒的多数を占める解決手続に進めない労働者あるいは使用者の拒否によりあっせん不調となった労働者等の救済、紛争解決は労働審判制度によって行われることが期待される。従って、労基署の窓口まで相談に来た労働者を労働審判制へつなぐ役割を担う者が必要であり、当面それは日本司法支援センターとその契約弁護士に期待せざるをえない。

当弁護団としては、上記の「つなぐ」システムの構築について積極的に活動すると共に、各地の会員がセンターの契約弁護士となることも含めセンターが労働問題の相談・解決においても有効な役割が果たせるよう積極的に協力する必要があると思われる。

2 労働紛争におけるADRと社労士の関与

(1) 司法改革推進本部に検討会が設けられながら、本年通常国会に法案が提出できなかったのはADRである。しかし、今秋の臨時国会に法案提出の運びと伝えられ、報道等によれば、認証制度を設け、認証されたADRへの申立については、時効中断効等一定の法的効力を付与するとの骨子と考えられる。

 労働紛争の解決にあたって、新たにADRを設置あるいは認証する必要はなく、今、なされるべきは労働審判制度の充実とそのための体制、環境の整備である。当弁護団は04年5月27日付でかかる趣旨の意見書を公表した(ちなみに、日弁連労働問題委員会も同旨の意見を発表している)。

(2) ところで、現在、労働関係に係わるADRとしては、行政によるものを除くと弁護士が行う仲裁センター以外には存在しないと思われるが、ADRの主宰を狙って積極的に活動しているのが日本社会保険労務士連合会であり、既に全国全県に総合労働相談所を設置し、03年度には約2,400件の相談・あっせんを受付けている。

 現在、社労士は個別労働紛争解決促進法による調整委員会でのあっせんに限って代理権が認められているが(各地方労働委員会における個別紛争のあっせん手続については代理権は認められていない)、代理権の拡大とADRの主宰は同連合会の現在の最大の獲得目標であり、それに向けて日弁連法務財団に委託をして法務研修を実施するなどしており、会員による「あっせん代理人の仕事と受注開拓のすべて」との出版もある。

 現在の社労士の一般的レベルは労働法においても訴訟手続においても専門家と評価しうるレベルには程遠いと言わざるをえない(名古屋セクハラ事件・名地15・1・14労判852号67頁における社労士の言動、木全美千男「賃下げ・首切りご指導いたします」など参照)。当弁護団もかかる認識に基づき5月27日、「労働紛争におけるADRについての意見」を公表した。しかし、将来にわたっては、例えば解雇予告手当事件など法律上の問題を含まない簡易な個別紛争に関し、一定の役割を分担することも含め、労働者の権利の実現・確保の視点から検討を要する問題と考える。

3 敗訴者負担制度

04年通常国会で唯一継続審議となったのが、敗訴者負担制度を含む民事訴訟費用法改正法案である。秋の臨時国会に向けて、日弁連がパブコメ運動を行うなどしている一方、与野党、推進本部、日弁連間で様々な論議がなされているようである。

当弁護団は昨年来、3度にわたり意見書を発表してきたが、本年3月5日にも「『敗訴者負担合意』の排除を求める意見書」を発表し、訴訟上の「合意による敗訴者負担制度」の導入に反対するとともに、私法上の事前合意を無効とする措置をとるよう求めた。

本稿執筆時点で動向は予断を許さないが、仮に、抜本的修正がなされずに法案が成立した場合には、訴訟上は代理人が合意しなければ済む問題ではあるが、立法経緯を含め私法上の事前合意の効力を無効とすべく訴訟及び運動における努力が求められる。

4 労働訴訟協議会

東京地裁労働部と日弁連労働問題委員会との間で行われていた労働裁判協議会は一定の了解に達し、その成果を公表した(判例タイムズ1143号)。

東京地裁はもとより、各地においても有用な「成果」を活用して審理の迅速化を図るとともに、各地毎の裁判所との協議会の設置を模索すべきであろう。なお、東京地裁労働部裁判官らは「労働事件審理ノート」を公刊したが(判タ1144~1148号)、その批判的検討が「労働者の権利」257号に掲載されているので合わせて参照、活用されたい。

以 上