技能・実習制度 -外国人の労働問題

2007/10/5

1 外国人研修・技能実習制度の改革の動き

 2007年5月、厚生労働省研究会、経済産業省研究会、そして長勢法務大臣が、外国人研修・技能実習制度について、相次いで改革案を提案するという動きがあった。いずれも、現行制度に問題があるとの認識では一致しているものの、その問題点のとらえ方や改革の方向には違いがある。

 そこで、労働弁護団の立場から研修・技能実習制度を検証するとともに、各改革案について検討を試みることとする。

2 研修・技能実習制度

 技能実習制度は、2003年5月に創設された制度である。それまでは、研修目的で来日する外国人は、「研修」の在留資格を得て、6か月あるいは1年の在留期間を何回か更新しながら「研修」を受け、「就労」せずに帰国する建前となっていた。

 2003年4月5日、法務省の告示が出され(法改正がなされたのではない)、一定の要件を満たすことを条件に、外国人研修生が、その受け入れ先の研修機関において就労する場合に限って、「特定活動」という在留資格を法務大臣が与え、外国人が適法に就労することができるようになった。当該外国人の日本への滞在期間は、研修の期間も含めて3年以内とされた。

3 その実態は労働者の受け入れ

 日本政府は、いわゆる単純労働について、外国人労働者を受け入れない政策をとっている。したがって、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)には、単純労働をすることを目的とする在留資格を設けていない。したがって、外国人労働者を単純労働に従事させることは、「日本人の配偶者等」「定住者」(いわゆる日系二世・三世はこの在留資格を取得できる)などの日本における活動内容に制限がない在留資格を有するごく一部の外国人を除き、入管法上は違法ということになる。

 そこで活用されたのが「研修」制度であった。研修生の名の下に、外国人を単純労働に従事させたのである。

 これは日本企業にとっても、極めて好都合な制度であった。「労働者」ではないから、最低賃金法の適用はない。「研修手当」の名の下に微々たる手当を支払えば足る。労働保険にも加入させる必要はないし、労基法も適用されない。要するに、2~3年程度で入れ替わらざるをえないことを甘受さえすれば、極めてコストの安い労働者を得ることができる制度であったのである。

 これを外国人の側から見れば、実態は労働者であり「就労」をしているにもかかわらず、正当な「賃金」の支払いを受けられず、労災事故が発生した場合にも十分な保障が受けられないなど、労働者としての権利が全く保障されていない環境で就労を強いられるということになる。

4 厚生労働省の改革案

 厚生労働省が設置した「研修・技能実習制度研究会(座長:今野浩一郎 学習院大学経済学部教授)」は、2007年5月11日、「中間報告」を発表した。「中間報告」は、「実務研修中の研修生の法的保護のあり方」について次のように述べる。

 「研修の実態をみると、『実務研修』中の研修生が実質的に低賃金労働者として扱われ、残業までさせられている等の問題が生じているが、組織的な労務管理体制が不十分な中小零細企業(団体管理型による受け入れ)を中心に、『労働』とならないよう『研修』の性格を担保することは困難である。

 また、現行の『研修(1年)』+『技能実習(2年)』は、実態的には、『実務研修』から『技能実習』まで一連のものとして捉えられている。

 研修生の法的保護を図る観点から、『研修(1年)』+『技能実習(2年)』を統合し、最初から雇用関係の下での3年間の実習とし、労働関係法令の適用を図る。」

 そのほか、実習としての実効性の確保のための方策、受け入れ団体に管理責任を認める、ブローカー対策などを提言している。

5 経済産業省の改革案

 経済産業省が設置した「外国人研修・技能実習制度に関する研究会(座長:依光正哲 埼玉工業大学教授)」は、2007年5月14日、「とりまとめ」を発表した。

 「とりまとめ」は、現行制度の維持を前提に、その運用の適正化・厳格化を提言する。肝心の「研修・技能実習生の保護」については、①初期ガイダンスの実施、研修生カードの発行、②(研修・技能実習生のための)申告窓口の充実、③受入停止の際の研修・技能実習生の保護、④雇用契約書の母国語表記の義務化、⑤(受入機関の)積立金制度の導入を提言するのみである。

 そして、「研修期間中の保護についての考え方」について次のように述べる。「現在の制度の運用実態に鑑み、研修期間中の研修生の保護を強化することも課題となっている。これに関して、当初から研修生を労働者と考え(すなわち、当初から実習と位置づける)、労働法の適用により研修生を保護すべきとの考え方もある。現在、研修生に対して労働法規が明示的に適用されていないことが、研修生の酷使など趣旨に合致しない運用につながっているとの指摘もあり、一定の合理性がある。すなわち、罰則を伴う労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法等の適用対象となるとともに、明示的に労働基準監督署の指導対象とされることで、悪質な運用に対する抑止効果が期待できる。

 他方で、このような取扱により、「研修生は労働者である」という認識が行き過ぎる場合には、技能移転による国際貢献という趣旨が弱まり、体系的な技能教育の実施や、宿舎の確保、生活指導、日本語教育等の支援を企業負担で実施する意欲の減退につながる恐れもないわけではない。

 この点については、本研究会でも双方の議論があったところであるが、研究会の結論としては、現行の一年間の研修を継続し、その間の受入機関による「体的な技能教育」、「日本語教育」、「生活支援」等の法令上の明確な義務づけ、研修生による申告・相談の仕組みの整備、罰則の強化等により、研修生の保護を図り、研修の内容を充実させるという考え方を採用した。なお、この場合、実質的に低賃金労働として酷使されていると判断されるような悪質な場合には、研修生であっても、積極的に労働基準監督署が指導・保護等を実施していくことも求められよう。(現行制度の下でも、研修生であっても、労働基準監督署が実態に応じて指導・保護等を行うことは可能である。)」

6 長勢法務大臣の改革案

 長勢法務大臣は、2007年5月15日、「外国人労働者受入れに関する検討の指示について」を発表した。

 長勢法務大臣は現状について、次のような認識を示している。「『専門的・技術的分野』以外の分野については受け入れが認められていないことに不満があること、研修・技能実習制度の運用の実態に種々の批判があること、経済の国際化、人口減少社会の到来から内外の流入圧力が高まっていること、一方で外国人労働者の増大が治安や地域の負担の増大をもたらしていること」

 そして、「新たな外国人労働者受入れ制度」を「受入れの目的を現行の国際技術移転に限定せず、国内で必要な労働力確保に資するものに転換する」として、具体的には、①受入れ団体の許可制度を設ける、②受入れ団体は受入れ枠の範囲内で就労希望者を募集して企業に紹介する、③企業は紹介された外国人労働者と雇用契約を締結する、④就労期間は3年間とし、再就労は認めない、などの提案をしている。

7 労働者としての保護が最優先

 外国人労働者を日本が受け入れるかどうかの政策判断については種々な意見があろう。しかし、「労働者」としての実態、「就労」としての実態がある以上、その実態を直視するべきであり、外国人労働者の労働者としての権利が保護され、外国人労働者が安心して就労できる環境を作ることが最も重要な視点であると考える。

 日本輸出縫製品工業組合副理事長の河村勲氏は、朝日新聞の取材に対して、以下の通りコメントしている。「縫製業界は、低価格の海外製品と競争しているため、人件費を抑えざるを得ない。だから、縫製業者が募集をしても労働者、とくに若い人は集まってこない状況で、外国人研修・実習生は貴重な戦力となっている。」(下線部筆者)「私たちの組合は、研修生に月額6万円の研修手当を渡している。手当が6万円だからといって、研修生を『安い労働力』と言うのは大間違いだ。受け入れ企業は、月額にならせば1人当たり10万円以上は負担している。まず、中国の送り出し機関に支払う管理費が毎月2万円。」「1年後に技能実習生になると最低賃金を支払っている。」(2007年6月17日朝日新聞朝刊)。受け入れ機関は、研修制度の本来の「国際間の技術移転」という目的とは無関係に、人件費の安い労働者を確保する手段として研修制度を利用していることは明らかである。

 また、モンゴル文化教育大学長の牧原創一氏は、「多額の借金をした中国人研修生が06年、千葉県木更津市の派遣先の養豚場で、残業代が少ないことが不満で殺人事件を起こした」「(木更津市の事件の被告は)(受入団体である)千葉県農業協会が中国に設けた研修センターに100万円以上の研修費を払っていた。」「中国の研修生派遣会社でも、『紹介料』として研修生から70万円から100万円をとるのが常識だ。」と外国人は出稼ぎ目的で来日すること、多額の中間搾取が行われていることを指摘する(2007年8月17日朝日新聞朝刊私の視点)。

 国際研究協力機構(JITCO。事実上、違法な「研修」生を今日の受入機関に供給してきた組織。04年は、研修生入国者の3分の2(51,012名)を扱っており、85%が団体監理型で、しかも全体の約40%が19人以下の零細企業である)の巡回指導ですら前年比24%増の7397件の違法行為が確認されている。

 このような実態からすると、経済産業省の改革案は、運用上の改善を提案するものにすぎず、日本企業が最低賃金法の定めをも下回る低賃金での労働者を求めているという実態に鑑みるとき、「研修生」という名の「労働者」を保護するものとしては不十分であるとの批判を免れない。

 厚生労働省の改革案も、長勢法務大臣の改革案も、「労働者」としての法的地位を認め、「外国人労働者」の保護を図ることを意図する点では共通している。この点では、「労働者」としての実態を直視して、「労働者」の保護を図るものとして評価できる。

 しかし、いずれの改革案も「外国人労働者」を3年間限りの「使い捨て」とするという発想に立っている点でも共通している。労働者は単なる「労働力」ではなく、ひとりの「人間」である。恋に落ちることもあるであろうし、3年間も滞在していれば日本に生活基盤ができることも考えられる。3年間で必ず帰国しなければならないとすることは、その人間としての生活を奪うことになりかねない。3年間の「使い捨て」を認める制度は、あまりにもご都合主義ではないであろうか。

8 早急な改革を

 今も、「研修生」という名の「労働者」が、劣悪な労働条件のもとで働かされている。いずれにしても、経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会第2次答申(9月21日)は、「外国人労働に関わる制度自体の適正化を推進」し、さらに中期的には、「新たな制度再構築」が必要として、4点の方向性(①実務研修生にも労働法を適用-3年の「技能実習」という新たな在留資格の創設、②高度技能実習制度の導入、③対象職種の設定・範囲の弾力的見直し-多能工化への対応、看護・介護への拡大など、④本来の趣旨-技術移転-の徹底化)を提示した。早急に、「研修生」という名の「労働者」にも労働者としての権利が保障されるように改革をすべきである。

以 上